OVERKILLはアメリカ東海岸ニュージャージーの出身。D.D.ヴァーニ(ベース)とラット・スケイツ(ドラムス)を中心に1980年に結成された。彼らはヘヴィ・メタルと同時にパンク・ロックからも影響を受けている。元々2人はパンク・バンド、THE LUBRICUNTSで行動を共にしており、そのバンドが解散すると新たにVIRGIN KILLERを結成、地元の友人であるボビー“ブリッツ”エルズワース(ヴォーカル/ブリッツというニックネームはDEAD BOYSのジョニー・ブリッツから拝借)と共に活動を始め、やがてはオーヴァーキルと名乗るようになった。当時ギタリストのポジションはかなり流動的で、何人も入れ替わったギタリスト達の中にはANTHRAXで後に知られることになるダン・スピッツも含まれていた。ボビー・ガスタフソンが加入してラインナップがひとまず固定したのは1982年のことだった。
当初はIRON MAIDEN、JUDAS PRIEST、MOTORHEAD、RIOT、DEAD BOYS、RAMONES等のカヴァー曲を演奏していたが、やがてオリジナル曲を書き始め、1984年にはMetal Storm Recordsと契約して4曲入りのEP『OVERKILL』を録音した。しかし、『OVERKILL』のリリースは当初の予定よりも7ヵ月も遅れ、彼らの名前が知られるようになったのはMegaforce Recordsから1985年にリリースされた1stアルバム『FEEL THE FIRE』においてだった。最初に制作した『OVERKILL』は、結局『FEEL THE FIRE』の後に発売されている。
IRON MAIDENやJUDAS PRIEST等ブリティッシュ・ヘヴィ・メタルの様式と、RAMONESやDEAD BOYS等から受け継いだパンク・ロックの荒々しさを融合させた彼らの音楽性はアンダーグラウンドですぐさま話題となり、METALLICA、SLAYER、ANTHRAXらに続く存在として注目を浴びるようになった。1987年には表現力と演奏力が格段に増した2ndアルバム『TAKING OVER』を発表、スピード、パワー、グルーヴ、メロディといった面での順当な進化を印象づけた。同年、EP『FUCK YOU』を最後にバンド結成メンバーのラット・スケイツが友好的に離脱、後任として元PAUL DI’ANNO’S BATTLEZONEのデンマーク人ドラマー、ボビー“シド”ファルクを迎えている。
新たな編成となったOVERKILLは、3rdアルバム『UNDER THE INFLUENCE』(1988年)、4thアルバム『THE YEARS OF DECAY』(1989年)と短いスパンのうちに優れたアルバムをリリース、それらのアルバムでは音楽性の更なる高まりを見せたが、1990年にボビー・ガスタフソンが離脱。彼の後任としてメリット・ギャントとロブ・カナヴィーノという2人のギタリストを迎え、以後5人編成で活動していくことになった。 5thアルバム『HORRORSCOPE』(1991年)、6thアルバム『I HEAR BLACK』(1993年/ドラマーがティム・マレアーに交代)、7thアルバム『W.F.O.』(1994年)、8thアルバム『THE KILLING KIND』(1996年/ギター・コンビがジョー・コミュー&セバスチャン・マリノに交代)、9thアルバム『FROM THE UNDERGROUND & BELOW』(1997年)、10thアルバム『NECROSHINE』(1999年)、11thアルバム『BLOODLETTING』(2000年/ギタリストがデイヴ・リンスク1人の4人編成で制作)、12thアルバム『KILLBOX 13』(2003年/デレク・テイラーがセカンド・ギタリストとして加入、再び5人編成となった)、13thアルバム『RELIXIV』(2005年)、14thアルバム『IMMORTALIS』(2007年/ドラマーがロン・リップニッキに交代)、15thアルバム『IRON BOUND』(2010年/本作より世界最大のメタル・レーベルの1つであるNuclear Blast所属となる)、16thアルバム『THE ELECTRIC AGE』(2012年)、17thアルバム『WHITE DEVIL ARMORY』(2014年)といった具合にコンスタントに作品をリリース(オリジナル・アルバム以外にもカヴァー・アルバムやライヴ・アルバム、ライヴDVD、ボックスセット等も発表している)、90年代から2000年代にかけてのヘヴィ・メタル不遇の時代も、不撓不屈の精神で活動を続けていたことは非常に意義深い。2018年にはドイツのオーバーハウゼンにて開催された『FELL THE FIRE』の30周年と『HORRORSCOPE』の25周年を同時に祝うアニヴァーサリー・ライヴの模様を収めたライヴDVD/CD『LIVE IN OVERHAUSEN』をリリース、1日のうちに2枚のアルバムを完全再現するという音楽シーン全体において前代未聞の試みが絶賛されたことが記憶に新しい。
2019年2月にリリースされた『ザ・ウィングス・オブ・ウォー』は、前作『ザ・グラインディング・ウィール』以来2年振りとなる通算19枚目のオリジナル・アルバム。前作では、元SABBAT〜HELLのギタリストであり、今現在JUDAS PRIESTのツアー・ギタリストとしても活躍しているアンディ・スニープがミキシングとマスタリングを担っていたが(アンディはJUDAS PRIEST、ACCEPT、MEGADETH、TESTAMENT等を手掛けてきた現代メタル・シーンを代表するプロデューサー)、今回はSOULFLY、QUEENSRYCHE、HATEBREED、SANCTUARY、REVOCATION、CROWBAR等といった様々なタイプのヘヴィ・メタルやハードコアのバンド達を手掛けてきたクリス“ゼウス”ハリスがそこのところを担っている。そして目玉というべきは2017年にバンドに加入したドラマー、ジェイソン・ビットナー(SHADOWS FALL)が初めてオーヴァーキルのレコーディングに参加したことだろう。彼の強力なドラミングにより オーヴァーキル サウンドはまた一段階シフトアップしているのは確かである。
2023年4月、20枚目となるニュー・アルバム『スコーチド』をリリース。前作『ウィングス・オブ・ウォー』のリリースが19年だから4年ぶり。これはオーヴァーキル史上最長のブランクである。「自分のパートを書いては捨てを繰り返していた。ミックスが始まってもまだ自分のパートを変えていたよ」と語るのはボビー。パンデミックでツアーができない暗黒期を最大限に利用し、じっくりとアルバムを仕上げたのだ。だからと言って、オーヴァーキルの方向性に変化があるはずもない。オーヴァーキルはいつでもオーヴァーキル。いつも通り、パワフルなボビーのヴォーカルをフィーチャーしたエネルギッシュでメロディックなスラッシュ・メタルが展開される。