KADAVARはドイツのベルリン出身。クリストフ“ループス”リンドマン[vo,g]、フィリップ“マムート”リピッツ[b]、クリストフ“タイガー”バーテルト[ds]というトリオ編成で2010年に活動を開始した。彼らはBLACK SABBATHやPENTAGRAMなどドゥーム・メタルのルーツに当たる70年代ハード・ロック、HAWKWINDに代表されるスペース/サイケデリック・ロック、更には母国ドイツのLUCIFER’S FRIEND、EPITAPH、SECOND LIFE、初期SCORPIONSといったハード・ロックから影響を受けてバンドを結成、創作活動に取り組むようになった。
2012年、アメリカのドゥーム/ストーナー/ガレージ・ロック系レーベル「Tee Pee Records」と契約した彼らは、セルフ・タイトルのデビュー・アルバム『KADAVAR』をリリースした。70年代のアンダーグラウンド・スタイルをダイレクトに継承したそのサウンドは、ドゥーム/オールド・ハード・ロックのリスナーやメディアから高い評価を受け、SAINT VITUS、PENTAGRAM、SLEEP、ELECTRIC WIZARDといった先輩バンド達とのツアーも好評を博した。
デビュー・アルバム及びそれに伴うライヴ活動でのバンドの評判を見聞き、そして彼らの音楽そのものに可能性を見出した母国ドイツの大手ヘヴィ・メタル・レーベル「Nuclear Blast Records」が彼らにアプローチ、両者の間で契約がまとまった。「Nuclear Blast」からのアルバム・リリースに先駆けて、彼らは独自にレコーディングを行ない、2012年に『KADAVAR』発表後に共にドイツをツアーしたフランスのバンド、AQUA NEBULA OSCILLATORとのスプリット・アルバムをドイツのインディペンデント・レーベル「This Charming Man Records」よりリリースした。
彼らはその後もレコーディングを続け、仕上がった9曲をまとめて「Nuclear Blast」からのワールドワイド・デビュー作であり通算2枚目のフル・アルバム『ABRA KADAVAR』を2013年に発表した。『KADAVAR』と同一路線ながらサイケデリック・スタイルのアレンジ・センスをより多岐に渡る表現形式で具現化させたその作風は高く評価された。しかしながら『ABRA KADAVAR』発表からほどなくしてベース奏者のマムートがバンドから離脱、後任としてサイモン“ドラゴン”ブートルーが加わった。ドラゴンを迎えた新編成で彼らはライヴ活動を続行、2014年にはヴィニール盤2枚組によるライヴ・アルバム『LIVE IN ANTWERP』をリリースしている。その後も彼らは創作及びツアー活動で多忙に動き回り、2015年には「Nuclear Blast」からの第2弾であり、彼ら自身の地元の都市名をタイトルに掲げた通算3枚目『BERLIN』を発表、2枚組のヴィニール盤ヴァージョンにはニコの1981年発表のヒット曲のカヴァー “Reich Der Traume”がボーナス・トラックとして収録されていたことも話題となった。
さらに、2017年には日本再デビュー作であり通算4作目となるオリジナル・アルバム『ROUGH TIMES』、2018年にはライヴ・アルバム『LIVE IN COPENHAGEN』、2019年には通算5作目となるフル・アルバム『FOR THE DEAD TRAVEL FAST』をリリースしている。
彼らの音楽スタイルは、一言で表現するならサイケデリック・ロック、あるいは単にハード・ロックということになるのだろうが、そこにヘヴィ・メタルやパンク/ハードコアのエッジが効いているところがポイントと言える。ルーパスは10歳か11歳の頃にIRON MAIDENやMETALLICAを知ってヘヴィ・メタル・ファンとなり、その後THE DAMNEDを知ってパンク・ロックに入れ込むようにもなった。やがてMAGMAやGONGやHAWKWIND等を知ったことでサイケデリック系にも開眼、前掲のBLACK SABBATH等々の古いハード・ロックと均等に親しむようになった。彼のギタリストとしての重要な影響源はジミ・ヘンドリックス、トニー・アイオミ、そしてリッチー・ブラックモアの3人であり、シンガーとしてはニック・ケイヴ、PENTAGRAMのボビー・リーブリング、フレディ・マーキュリー、そしてフランク・ザッパらを尊敬しているとのこと。タイガーはかつてハードコア・パンク・バンドに在籍していたこともあれば大のBEATLES狂でもある。シモーヌは60年代後期のサイケデリック/プログレッシヴものをメインに聴いてきた人だが、STOOGESやMC5等の元祖パンクで元祖メタルなバンドも通過している。
一筋縄ではいかない多種多様なルーツを自らにインプットしてきた面々がアウトプットする音楽が単細胞的であるはずはなく、万華鏡のような色彩感覚を放つカダヴァー・サウンドは更なる高みに到達している。