ドロ・ペッシュはドイツ出身の女性ヘヴィ・メタル・シンガー。80年代にはSCORPIONSやACCEPTらに続くジャーマン・バンドと目されたWARLOCKにて活動、「BURNING THE WITCHES」(1984年)、「HELLBOUND」(1985年)、「TRUE AS STEEL」(1986年)、「TRIUMPH AND AGONY」(1987年)といったアルバムをコンスタントにリリースしていた。特にWARLOCK名義での最後のアルバム「TRIUMPH AND AGONY」は、本国ドイツはもとよりアメリカでも人気を呼び、MTVで“All We Are”のビデオ・クリップが頻繁にオンエアされたことも功を奏してビルボード総合チャート80位にランクインした。
1988年、バンド名の法的権利を巡って元マネージャーとトラブルとなったため彼女はソロ・シンガーに転身、DORO名義での1stアルバム「FORCE MAJEURE」を1989年に、2ndアルバム「DORO」を1990年に発表した。後者にはプロデューサーとしてKISSのジーン・シモンズ、元BLACK N’ BLUEで現在はKISSに在籍するトミ―・セイヤーらがプロデューサーとして関わっていた。「FORCE MAJEURE」はWARLOCK時代のサウンドを継承するヘヴィ・メタル・アルバムだったが、「DORO」ではポップでコマーシャルな路線を追求、1991年にカントリーの街として知られるナッシュヴィルにて録音された3作目「TRUE AT HEART」では、よりきらびやかなロック/ポップ・サウンドを聴かせていた。その後も「ANGELS NEVER DIE」(1993年)、「MACHINE II MACHINE」(1995年)、「LOVE ME IN BLACK」(1998年)といったモダン・ポップ路線のアルバムを発表し続けた彼女は、当時においては従来のヘヴィ・メタル・シンガー然としたタフでストロングなイメージからは遠ざかっていた。
2000年になると彼女は心機一転、MOTORHEADのレミー・キルミスター、元GUNS N’ ROSESのスラッシュ、KISSのエリック・シンガー、ALICE COOPERやASIA、MEGADETH等にいたアル・ピトレリ、KISSやW.A.S.P.等の仕事で知られるボブ・キューリック等々、ヘヴィ・メタル/ハード・ロック・シーンの大物ミュージシャン達をゲストに迎えて制作した「CALLING THE WIND」を発表する。かつてのロック魂を取り戻したこのアルバムをもって彼女はヘヴィ・メタル路線に帰還したのだった。その後、TYPE O NEGATIVEのピーター・スティールやSAVATAGEのクリス・キャファリーらが参加した「FIGHT」(2002年)、アコースティック/シンフォニックによる再録音がメインの「CLASSIC DIAMONDS」(2004年)、よりパワフルになったサウンドが聴ける「WARRIOR SOUL」(2006年)、元NIGHTWISHのターヤ・トゥルネンが参加した「FEAR NO EVIL」(2009年)、レミー・キルミスターやOZZY OSBOURNEのガス・G、LEAVES’ EYESのアレクサンダー・クルルらが参加した「RAISE YOUR FIST」(2012年)といったアルバムを続々と発表していく。作品に対する人気は勿論のこと精力的なライヴ活動でも支持を高めていったドロは、ここにきて再びヘヴィ・メタル・クィーンとしての玉座を手中に収めたのだった。2009年には、世界最大のメタル・フェスティヴァル『WACKEN OPEN AIR』の20周年を記念するシングル曲“Wacken Anthem(We Are The Metalheads)”を書き上げるなど、言わばヘヴィ・メタル・シーン全体において象徴的と呼べる役割を担うまでになっていた。
2016年には「STRONG AND PROUD – 30 YEARS OF ROCK AND METAL」という2枚組の映像作品を発表。これは、WARLOCK時代を含むドロ・ペッシュのシンガー活動歴30周年を記念してのもので、2013年から2014年にかけて行なわれた、メタル界の大物も多数ゲスト参加したアニヴァーサリー・ショウ3本の模様がDVD1に収録されており、DVD2にはドキュメンタリー映像を収録、ドロのインタビューや彼女のオフ・ステージの様子などが収められていた。
2018年には、通算13枚目のソロ・アルバムであり、初めての2枚組スタジオ・アルバムである「フォーエヴァー・ウォリアーズ、フォーエヴァー・ユナイテッド」をリリース。WARLOCK時代も彷彿とさせるパワフルでストロングなヘヴィ・メタル賛歌、ハスキーな歌声を活かした美しくも物悲しいバラード、快活なロックン・ロール等々、彼女のヘヴィ・メタル/ハード・ロック・シーンにおける栄光のキャリアを総覧するかのような仕上がりには絶賛が寄せられている。
ドロがアーティストとして活動を開始してからちょうど40年に当たる、記念すべき2023年の10月には、アルバム『Conqueress - Forever Strong and Proud』をリリース。本作は、40周年を祝うにふさわしい、全20曲入り2枚組の大作。ヘヴィかつハードでありながら、キャッチーな楽曲。ますます磨きがかかるドロの歌唱には、40年間シーンを牽引してきた貫禄が感じられる。まさに女征服者(Conqueress)。これぞヨーロピアン・ヘヴィメタルと、胸を張って言える傑作だ。