BLUES PILLSはスウェーデン中部の街エレブルーを拠点とするブルーズ・ハード・ロック・バンド。アメリカ人ベーシストのザック・アンダーソンと彼の弟でドラマーのコリー・ベリーは元々アイオワのサイケデリック・ロック・バンドRADIO MOSCOWで活動していたのだが、ザックは2011年のある日、カリフォルニアにて、スウェーデン出身の女性シンガー、エリン・ラーソンと出会った。そのことが新しいバンド結成の直接のきっかけだった。また、ザックはその1年ほど前にフランスにてドリアン・ソリオーとも出会っており、彼のギター・プレイに大いに感銘を受けていた。各メンバー達はしばらくインターネットのやりとりで創作を行なっていたのだが、バンド活動が本格化することを見込んで、それぞれスウェーデンに移り住むことを決断した。
バンド結成間もない頃にインターネットに公開したデモに対して良い反応が集まっており、やがては彼らのもとに様々なレーベルから作品リリースの話が舞い込むようにもなった。BLUES PILLSは作曲とリハーサルとレコーディングを精力的に続行、2012年に”Maximum Ames Records”より7インチ・シングル「BLACK SMOKE」を、”Crusher Records”より10インチEP「BLISS」をリリースした。それらの音源は耳聡いロック・リスナーの間で瞬く間に話題となって即完売、現在ではインターネットの中古盤市場にてそれぞれ高値で取り引きされている。ちなみにBLUES PILLSというバンド名は60年代及び70年代のオブスキュアなロック・バンドを扱うブログ『BLUES PILS』から採られたもので、そのブログの書き手であるドイツ人プロモーターは今現在「FREAK VALLEY FESTIVAL」を主催している。バンドのBLUES PILLSは同フェスティヴァルの2014年版と2015年版でヘッドライナーを務めるなど、両者は極めて良好な関係を築き上げている。
BLUES PILLSにとっての最大の転機が訪れたのは2013年のこと。ヨーロッパ最大のヘヴィ・メタル・レーベルの1つ”Nuclear Blast”が彼らにアプローチ、両者の間で大型の契約が結ばれたのだった。”Nuclear Blast”より、EP「DEVIL MAN」(2013年)、ライヴEP「LIVE AT ROCKPALAST」(2014年)をリリース、アルバム・デビュー前にもかかわらず彼らは一躍要注目バンドの1つとして幅広く認知されるようになった。そして2014年7月、彼らは待望のファースト・フル・アルバム『BLUES PILLS』を発表。60年代、70年代のサイケデリック・ロック、ブルーズ・ロック、ハード・ロック、50年代のソウル/R&Bから大いなる影響と刺激を受けた彼らの本格的なサウンドは、世界中の音楽ファンやメディアから高い評価を得ることになった。この時、ドリアンはまだ18歳、他のメンバー達は20代前半という若さだったが、子供の頃から世の中の刹那的な流行には一瞥もくれることなく、音楽がアートと認識されていた旧き良き時代のレコードに触れて学んできたからこそのサウンドとパフォーマンスがそこに凝縮されていたのである。
アルバム・デビュー後、彼らのライヴ活動は更に勢いづき、「SWEDEN ROCK FESTIVAL」やドイツ「ROCK HARD FESTIVAL」、スイス「MONTREUX JAZZ FESTIVAL」といった名だたる舞台にも登場、大喝采を得たのだった。2015年には、前述の「FREAK VALLEY FESTIVAL」出演時に撮影した素材によるライヴDVD『BLUES PILLS - LIVE』を発表している。
アルバム・デビュー早々に順調な滑り出しを見せたBLUES PILLSの面々は、2015年の年末からセカンド・アルバムの制作に取り掛かった。アルバム制作を中断して2016年2月から4月にかけてヨーロッパ・ツアーを行なっていたが、そのツアーを終えると彼らはアルバムの最終仕上げに着手、2枚目のアルバム『LADY IN GOLD』を完成させた。アートワークを手掛けたのは前作に引き続きオランダ人アーティスト、マリク・コーゲル・ダーナム(BEATLESやCREAMの作品で著名)であり、プロデュースも前作と同様にドン・アルスターベルグ(GRAVEYARD他)が担当した。なお、ファースト・アルバム発表から間もなくドラマーがコリー・ベリーからアンドレ・クヴァルンストロムに交代したが、本作はアンドレを擁する編成による最初のアルバムでもある。
ドイツのアルバム・チャートで1位、スウェーデンでは2位に輝いた他、ヨーロッパ大陸やイギリスなど各国のロック・リスナーから高い評価を得た『LADY IN GOLD』を引っ提げて、彼らは欧州/北欧/英国を巡るツアーに出発、同じく”Nuclear Blast”レーベルに所属するドイツのバンド、KADAVARとの共演だった。その欧州ツアーの際、2016年10月30日のフランス・パリの「Le Trianon」でのショウの際に収録されたものを、ライヴ作品『LADY IN GOLD : LIVE IN PARIS』として2017年にリリースしている。
2020年には、4年ぶりとなる3枚目のスタジオ・アルバム『Holy Moly!』をリリース。ザック・アンダーソンがベースからギターに転向、クリストファー・スシャンダーがベーシストとして新加入。オリジナル・メンバーであるザックとエリンのヴィジョンがさらに明確になって、“ブルーズ・ピルズ=ブルースの錠剤”を呑み下したような高揚感は、ナチュラル・ハイなトリップだ。 バンド自身のセルフ・プロデュースで、その生のステージ・パフォーマンスをパッケージした本作は、まだ日本のファンが見たことのない彼らのライヴのエネルギーがふんだんに封じ込められている。