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英国の闇を司る耽美ブラック・メタルの重鎮が放つ第11教典は、中世の魔女狩りを現代に蘇らす禁断の典範だ。
1991年、ヴォーカリストのダニ・フィルスを中心に英国サフォークで結成。ブラック・メタルのヘヴィネスと畳みかけるブラスト・ビート、ゴス・ロックの漆黒の浪漫、ハマー・ホラー映画の恐怖などを取り入れた独自の美学と音楽性により、一躍エクストリーム・メタル界の寵児となる。
吸血鬼カーミラや残虐の貴婦人エルゼベエト・バートリ、闇の種族ミディアン、女邪神リリスなどを題材にしたダークなドラマ性、そしてバンドTシャツの反キリスト教的メッセージのせいでカトリックの総本山ヴァチカン市国でメンバーが逮捕されるなどのセンセーショナリズムによって、彼らはイギリスで最も成功したエクストリーム・メタル・バンドのひとつとなった。
デビュー以来、数々のメンバー交替を経ながらも、ダニ・フィルスの鋭利に心を突き刺すヴォーカルと揺るがぬカリスマ性で熱狂的な支持を得てきた彼らだが、前任ギタリストのポール・アレンダーが脱退(ホワイト・エンプレス結成)、リチャード・ショウとアショクのツイン・ギター編成になったことで、ギターのオーケストレーションが強化。またキーボード兼女声ヴォーカルのリンゼイ・スクールクラフト(元ダイダリアン・コンプレックス)が加わって生み出すシンフォニックでブルータルな世界観は、往年の名盤『ダスク・アンド・ハー・エンブレイス』(1996)や『鬼女と野獣』(1998)を彷彿とさせるものだ。
2021年10月には、『エグジステンス・イズ・フュータイル』と題されたニュー・アルバムをリリース。大きな話題を呼んだ前作『クリプトリアナ〜腐蝕への誘惑』から早4年。前作がそれまでの彼らの要素をすべて入れ込んだような作品であったのに対し、今回はバンド史上最もダークで不気味なアルバムだ。もちろん今回もコンセプト・アルバム。「存在することは虚しい」というタイトル通り、必ず死に直面しなくてはならない我々の存在というものを、ひたすらシンフォニックなオーケストレーション、クワイヤ、そしてダニのドラマチックな語りで描いていく。彼らはまたしてもブラック・メタル・ファンだけでなく、あらゆるドラマチックな音楽のファンの鳥肌を立てまくる、とてつもなくスケールの大きな作品を作り上げることに成功した。
前作同様エンジニアを務めるのはスコット・アトキンス。さすがはクレイドル・オブ・フィルスというバンドを熟知しているスコット。可能な限りライヴに近いサウンドを目指したというプロダクションは、実にパワフルでダイナミックだ。
2025年には、長年のホームであったニュークリア・ブラストを離れ、オーストリアの大手、ナパーム・レコードと契約。ニュー・アルバム『The Screaming Of The Valkyries』をリリースする。