90年代初頭のノルウェーで生まれたブラック・メタルは、名実ともに悪魔の音楽だった。実際にシーンでは教会放火や殺人までもが横行。ブラック・メタルとは、単なるイメージに留まらず、ほんとうに恐ろしい音楽だったのだ。そんなブラック・メタルも、その後真に危険な部分を切り捨てることで、一般的な認知を得るに至った。もはやそれが持つサタニックで暴力的なイメージも、あくまでイメージでしかなくなった。ところが2022年になった現在も、本当に危険なバンドは存在する。スウェーデンのヴァーテインはその筆頭だ。アメリカのフェスティヴァルでは、彼らのパフォーマンス中にステージに乱入してきたD.R.I.のメンバーを、オーディエンスの面前でボコボコに。11年に来日した際には、対バンの素行が気に入らないと、鉄拳制裁を加えたという逸話もある。「ブラック・メタルって怖そうだけど、実際会ってみると良い人たちだよ」などという常套句が通用しないバンド、それがヴァーテインなのだ。その結成は98年。00年に『Rabid Death’s Curse』でアルバム・デビューを果たした。ヴァーテインが真価を発揮するのは、間違いなくライヴだ。そのステージは儀式そのもの。時にステージ全体が炎に包まれるほどの演出は、圧巻以外の何ものでもない。ブラック・メタルの持つシアトリカル性を極限まで追求した、想像を超える完成度を誇るステージで、彼らはあっという間にブラック・メタル界を制圧した。
2023年11月にはライヴ・アルバム『Die in Fire – Live in Hell』をリリース。22年地元のスウェーデンで行われたライヴを収録した本作。最凶のバンドでありながら、同時に大きな人気を誇っている彼ら。その秘訣は、間違いなくライヴの凄まじさにある。果てしなく暴力的でありながら、どこかキャッチーなところのある楽曲の、ライヴにおける破壊力は半端なものではないことは、本作を聴けばすぐにわかることだろう。最新アルバム『The Agony & Ecstasy of Watain』のナンバーを中心に、Bathoryの名曲カヴァーも含め、全12曲を収録。