
現クリエイター、元ドラゴンフォースのベーシスト、フレデリク・ルクレール、そして現ヴィミック、元スリップノットのジョーイ・ジョーディソンを中心としたエクストリーム・メタル・バンド、シンセイナムは、もともとフレデリクの個人的なプロジェクトとして誕生した。その始まりは1998年にまでさかのぼる。ドラゴンフォースの結成が99年であるから、構想という面だけで言えば、シンセイナムの方が古い。ドラゴンフォースはメロディックなパワー・メタル・バンドとしてその名が知れているが、フレデリクは「プライヴェートではパワー・メタルは殆ど聴かない」と公言するほどのエクストリーム・メタル・マニアなのだ。このプロジェクトが急展開したのが13年頃。フレデリクの構想を聞いたジョーイが、「それならぜひ俺にドラムを叩かせてくれ!」と大きな興味を示したことで、一気に話が具体化したのである。そして彼らが声をかけた他のメンバーも、2人に負けず劣らずのゴージャスぶり。ヴォーカルにはメイヘムのアッティラ・チハーと元ドスのショーン・Zの2名。ギターがラウドブラストのステファン・ビュリエ、そしてベースがセトのハイモット。まさにオールスター・バンドの名前がふさわしい、スーパー・プロジェクトが始動したのである。
そして16年、デビュー・アルバム『エコーズ・フォー・ザ・トーチャード』がヴェールを脱ぐ。ドラゴンフォースとは似ても似つかぬ、90年代初期を彷彿させるオールド・スクール本格的デス・メタルは、多くのファンを驚かせ、魅了した。さすがにこれだけのビッグ・ネームが集結していると、それぞれのスケジュールを合わせるだけでも至難のワザのはず。オールスター・バンドの宿命として、どうしても活動がスローペースになってしまうということがある。だが、シンセイナムにそんな心配はまったく必要なかった。翌17年には早くも『アッシュズ』EPを発表。デビュー・アルバムではモービッド・エンジェルの色が濃かったが、本EPではブラック・メタル的要素も導入、シンセイナム独自のスタイルを完成した。
シンセイナムの活動は止まらない。2018年には早くもセカンド・アルバム『リパルジョン・フォー・ヒューマニティ』をリリース。メンバーも変わらず、いつもの6人。「このアルバムは100%シンセイナムだ。みんなに喜んでもらおうなんていう気持ちはない。公式に従うつもりもない。もちろんラジオでプレイしてもらおうとも思っていない。アートワーク、歌詞、そして音楽。いずれの点においても商業的な妥協なんて微塵も無い」とフレデリクが言い切るとおり、今回の作品も実にヴァイオレント。「人間性の嫌悪」というタイトルにも、その意気込みが見て取れる。
真のスーパースター・デス・メタル・バンド、シンセイナム。90年代初頭のデス・メタルをベースにしつつも、ブラック・メタル的邪悪さ、ダークさがふんだんに取り込まれ、シンセイナムとしか形容のできないオリジナリティが確立されている。