10年ほど前、女性ヴォーカルをフィーチャしたオカルト・ロックがちょっとしたブームになった。このムーヴメントの中心にいたのが、オランダのザ・デヴィルズ・ブラッド。ブラック・ウィドウやコヴェンといった60年代後半〜70年代初頭のバンドから影響を受けたサイケデリックでオカルティックなスタイルで、ドゥーム/ストーナーからエクストリーム・メタルに至るまで幅広いファンを獲得していた彼女らであったが、わずか2枚のアルバム(『The Tie of No Time Evermore』(09年)、『The Thousandfold Epicentre』(11年))をリリースしたところで、突如解散を発表。多くのファンを落胆させた。(解散後にサード・アルバム『III: Tabula Rasa or Death and the Seven Pillars』(13年)をリリース。)さらに、14年にはバンドのリーダーであり、ヴォーカリスト、ファリーダの兄弟でもあるセリムが自殺。シーンに大きな衝撃を与えた。
そして2020年にデビューしたモラセスは、ファリーダがかつてのバンド・メンバーらとともに組んだバンド。つまり、ザ・デヴィルズ・ブラッドという伝説を継承する存在と言える。11分超の大曲で幕を開けるデビュー・アルバム『スルー・ザ・ホロウ』は、ザ・デヴィルズ・ブラッドで聞かせたサイケデリックで不気味なオカルト・ロックをベースにしつつも、プログレッシヴなアプローチを強化。単なる懐古趣味でない新たなる世界観を提示している。19年には本国オランダのロードバーン・フェスティヴァルにも登場し、アルバム・デビュー前から大きな話題となった。ますます磨きがかかったファリーダの歌唱も素晴らしく、再び女性ヴォーカル・オカルト・ロック・ムーヴメントが起こることを予感させる素晴らしい内容だ。