ヴィジョンズ・オブ・アトランティスは、オーストリアのシュタイアーマルク出身のシンフォニック・メタル・バンド。02年に『Eternal Endless Infinity』でアルバム・デビューすると、男女ヴォーカル+シンフォニック・アレンジメントというヨーロッパで人気の高いナイトウィッシュ型スタイル、そしてアトランティス大陸の伝説という独特のコンセプトで大きな注目を集めた。その後ナパーム・レコードとサインし、セカンド・アルバム『Cast Away』(04年)をリリース。しかし、バンドの顔であった女性ヴォーカリスト、Nicole Bognerが脱退してしまう。新たにアメリカ人のソプラノ・シンガー、Melissa Ferlaakを加え、サード・アルバム『Trinity』(07年)を発表。エピカとのツアーも大成功を収めるも、帰国後、そのMelissaも抜けてしまう。08年、オーストリア人ヴォーカリスト、Joanna Nieniewskaの加入がアナウンスするが、翌年早々に脱退。今度はオン・ソーンズ・アイ・レイやムーンスペルとのコラボレーションで知られるギリシャ人シンガー、Maxi Nilが加入、『Delta』(11年)、『Ethera』(13年)と2枚のアルバムを発表する。ところが13年、今度はヴォーカリストどころか、トーマス・カザーを除いた全員が脱退。バンドは危機を迎える。それでもトーマスは諦めない。フランス人シンガー、クレモンティーヌ・ドロネーを加入させ、さらにファースト・アルバムに参加していたメンバー3人を呼び戻す。(出戻りの2人はすぐにまた抜けてしまう)。
そんな紆余曲折を経て、18年にリリースされた6枚目のアルバムが、『ザ・ディープ・アンド・ザ・ダーク』。メンバー・チェンジが頻繁なバンドは少なくないが、ヴォーカルがことさら重要な位置を占めるシンフォニック・メタルというジャンルにおいて、アルバム6枚でヴォーカリストが5代目というのは、彼らくらいではないだろうか。しかし、5代目ヴォーカリストのクレモンティーヌ・ドロネーは、元セレニティ、そしてカイ・ハンセンのハンセン&フレンズにも参加経験のある才女。17年からは、エグジット・エデンというスーパースター・シンフォニック・メタル・バンドにも参加するなど、話題を集めている。
19年2月には、初ライヴ・アルバム『ザ・ディープ・アンド・ザ・ダーク・ライヴ~シンフォニック・メタル・ナイツ』をリリース。タイトル通り、『ザ・ディープ・アンド・ザ・ダーク』からの楽曲を中心としたステージの模様が収められている。やっと巡り会えた理想のヴォーカリスト。そして、そのライヴ・パフォーマンスに対する絶対の自信。このライヴ作品を聴けば、20年近いキャリアを持つこのバンドが、現在最高の状態にあることがわかる。シンフォニック・メタルのお手本のような楽曲の数々、そして彼ら特有のミステリアスでエキゾティックなフィーリング。彼らの良いところがすべて詰まったライヴ・アルバムと言える出来だ。
そして早くも同年8月、通算7作目となるスタジオ新作『ワンダラーズ』をリリース。かの『指輪物語』(J.R.R.トールキン作)に登場する詩の一節 “Not all those who wander are lost(彷徨う者は全て迷い人とは限らない)” から採られたという。この “アラゴルンの詩” は、“All that is gold does not glitter(全ての金が光っているとは限らない)” で始まり、 “The crownless again shall be king(王冠はまた王の許へ戻る)” で締め括られ──つまりは、 “見かけに騙されてはいけない” という意味が込められた、誰しもが心掛けるべき金言である。