2015年12月28日、レミー・キルミスター(b, vo)の死と共に長い歴史に幕を下ろしたモーターヘッド。そのモーターヘッドに1984年から在籍していたフィル・キャンベルは、13歳からセミ・プロのギタリストとしてイングランドのウェールズでキャリアーをスタートさせると、ローカル・バンドでの活動を経て、オーディションの末にモーターヘッドに加入する。ワーゼルとのツイン・ギター体制で『ノー・リモース』(1984年)から『サクリファイス』(1995年)のアルバムに参加した後、ワーゼルが脱退。レミー、フィル、ミッキー・ディー(ds)とのパワー・トリオとなったバンドは、『オーヴァーナイト・センセーション』(1996年)から10枚のスタジオ・アルバムをリリースし、バンドの歴史の半分をこのメンバーで過ごしたものの、残念ながら結成40年目に活動に終止符を打つこととなる。
モーターヘッドでの活動を終えた後、フィルはソロ・アルバムの制作に乗り出し、ジューダス・プリーストのロブ・ハルフォード、スリップノットのクリス・フェーン、ツイステッド・シスターのディー・スナイダーらのゲストを迎えて、レコーディングを開始する一方で、息子たちとフィル・キャンベルズ・オール・スター・バンドを立ち上げて活動を開始する。
バンドのメンバーはフィル、トッド・キャンベル(g)、デイン・キャンベル(ds)、タイラ・キャンベル(b)の3人の息子たち、シンガーのニール・スター(vo)の5人。2016年8月にドイツで開催された“Wacken Open Air”に出演し、モーターヘッドのカヴァーを中心としたセットをプレイして、大喝采を浴びた彼らは、その後もいくつかのショウを行なった後、フィル・キャンベル・アンド・ザ・バスタード・サンズに名前を変えて11月に“Motorhead Music”からEP『PHIL CAMPBELL AND THE BASTARD SONS』をリリースする。その後、12月以降に行なわれたライヴではこのEPからの曲もセットリストに入れてプレイするようになった彼らは、“Nuclear Blast”レコードと契約が成立。ウェールズのスタジオでレコーディングを実施し、デビュー・アルバム『ジ・エイジ・オブ・アブサーディティー』を2018年に発表。基本的にモーターヘッドのスタイルを受け継いだ内容であり、モーターヘッド・ロスに襲われていたファンたちにとって救いの光となるものであった。
2020年には、セカンド・アルバム、『ウィーアー・ザ・バスターズ』をリリース。これ以外に候補はなかったというアルバム・タイトルからして力強い作品。ここに収録されている楽曲は、いかにもモーターヘッドっぽいものばかりだけでなく、ブルース色が強いもの、さらにはストーナーっぽいものまでもが聴ける。しかし、いずれもバックボーンにあるのは強力なロックンロール。実にフィル・キャンベルらしいギター・プレイも満載で、これを聴けば誰もが頭を振りたくなること請け合いだ。
2023年7月、ライヴ・アルバム『ライヴ・イン・ザ・ノース』をリリース。本作では21年イギリスでのライヴ模様を収録。フィル・ファミリーに加え、新加入のヴォーカリスト、ジョー・ピーターズをフィーチャーした本作。フィル・キャンベル・アンド・ザ・バスターズの楽曲はもちろん、「Ace of Spades」、「Killed by Death」等モーターヘッドの名曲、さらにはホークウィンドの「Silver Machine」を含む全15曲を収録。北米、ヨーロッパではデジタルのみで発表。CDでリリースされるのは、ここ日本だけ。
2023年10月には3年ぶりのアルバム『Kings of the Asylum』をリリース。本作では、強烈なモーターヘッド臭を放つ爆走路線へと復帰。一切飾り気のない、これぞロックンロールといったストレートでハードなナンバーがズラリと並ぶ。レミーの遺志を継いでいるのは、間違いなくフィル・キャンベル・アンド・ザ・バスタード・サンズだ。