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2015年2月、サード・アルバム『アンホーリー・セイヴィアー』リリース後にバトル・ビーストを脱退したギタリストのアントン・カバネン。バンドの全作詞作曲を手がけてきた彼が新しいバンドを始動させた。その名もビースト・イン・ブラックだ。
バトル・ビーストは2008年にフィンランドのヘルシンキで高校の同級生だった3人、ギタリストのアントン・カバネン、ユッソ・ソイニオ、そしてドラマーのプル・ヴィッキが中心となって結成された。その他のメンバーは女性シンガーのニッテ・ヴァロ、ベーシストのエーロ・シピラとキーボーディストのヤンネ・ビョルクロトがオーディションを経てバンドに加入。デビュー前からバトル・ビーストの名前はヨーロッパのメタルヘッズの間では有名であった。それもそのはず、2010年の<ヴァッケン・メタル・バトル2010>にて、ファイナル・ステージに進出、ヴァッケン・オープン・エアに出演し見事優勝した。その後ラジオ局主催のRadio Rock Starbaでも優勝、デビュー前からメディア露出も多かったのである。バンドはここから快進撃を続ける。
フィンランドのレーベル“HYPE”からリリースされたバトル・ビーストのファースト・アルバム『スティール』は、2011年の春にフィンランドでチャート7位を記録。この後、名門ニュークリア・ブラストからボーナス・トラックを加え、2012年にヨーロッパで発売された。ナイトウィッシュのヨーロッパ・ツアーに同行し、初めてのツアーを行うも2012年秋、ニッテ・ヴァロが家族の問題を理由にバンドを脱退。新しい女性シンガー、ノーラ・ロウヒモが新加入し、2013年5月にセカンド・アルバム『バトル・ビースト』をリリース。前作『スティール』の売り上げを上回り、最高5位を記録するヒットとなった。2015年2月、3枚目のアルバム『アンホーリー・セイヴィアー』をリリース。ここまでのバンドの快進撃の理由に、ノーラの存在感があったことは否めないが、メイン・ソングライターであるアントン・カバネンによるヘヴィ・メタル・ミュージックへの深い理解力も重要な要素のひとつであったことは間違いない。彼はバンドの全作詞作曲を手掛けてきたのだった。
2013年11月、LOUD&METAL MANIAで初来日、2014年にはLOUD PARK14に参加、日本のメタル・ファンにもその名は浸透、順調に人気も上昇していた。ところが、サード・アルバム発表直後にアントン・カバネンはバンドを離脱。2015年4月にバトル・ビーストは渋谷CLUB QUATTROで初の単独公演を行ったが、そこにアントンの姿はなかった。以前からアントンと他のメンバーの間には亀裂が生じており、ツアー中のバンドの雰囲気は最悪だったという。そんな状況で長続きするはずもなく、アントンは解雇同然の状態でバンドを去ることになった。
そして結成されたニュー・グループが、ビースト・イン・ブラックだ。メンバーはツインギター編成の5人でアントンの他に、ギリシャのWARDRUMに在籍していたヤニス・パパドプロス(vo)、あのウド・ダークシュナイダー率いるU.D.O.のギタリストのカスペリ・ヘイッキネン、ハンガリーのパワー・メタル・バンドWISDOMのベーシストのマテ・モルナール、フィンランドのシンフォニック・エクストリーム・メタル・バンドBRYMIRのドラマー、サミ・ハンニネンという強力なメンバーが集結した。
アントンは新しいバンドの名に“獣”という言葉を残すことを選んだ理由について、「バトル・ビーストで始めた僕のビジョンを続けたいと思っている。“獣”はすでに僕の人生の不可欠な部分になっている。それはアイアン・メイデンの“Eddie”のようなものだ」と、語っている。
2018年2月にドラマーのサミ・ハンニネンが脱退、新たにアッテ・パロカンガスを迎え、2019年2月にはセカンド・アルバム『フロム・ヘル・ウィズ・ラヴ』を発表。前作から約1年というハイペースで作られた本作。W.A.S.P.やラプソディ、ビヨンド・ザ・ブラックとのヨーロッパ・ツアー、そして2018年5月の来日公演など精力的なライヴ活動で鍛造されたサウンドはアントンの豊潤な音楽キャリアの集大成だ。
映画やアニメ、日本の漫画などから多大なインスピレーションを受けた歌詞の世界観も健在だ。曲ごとに聴く者の魂を揺さぶる躍動感は、北欧フィンランド出身ならではの英雄伝説・叙事詩となっている。