1970年代にかけて隆盛を誇った英国のプログレッシヴ・ロックは、現在でも様々な形で伝統が受け継がれている。80年代に入ると英国では、アンダーグラウンド・シーンではブリティッシュ・ネオ・プログレッシヴ・ロックと呼ばれるバンドが数多く登場しており、一部のバンドが局地的に人気を集めていた。
イギリスの南東部に位置するサリーという街で、スレッショルドが結成されたのは1988年のことだった。カール・グルーム(g)を中心に、ジョン・ジェアリー(vo)、ニック・ミッドソン(g)、トニー・グリンハム(ds)というメンバーでスタート。92年にLANDMARQやTHE BUTTON FACTORYで活動していたダミアン・ウィルソン(vo)が加入、ジョンがベースに交代し、リチャード・ウェスト(key)を迎えた6人体制で制作されたアルバム『WOUNDED LAND』でデビューを果たした。
ダミアンの切なく雰囲気のある歌は評価が高かったが、アルバムのリリース後に脱退。新たなメンバーにグリン・モーガン(vo)を迎えた。彼はアイアン・メイデンのブルース・ディッキンソン後任オーディションで最終選考まで残ったという人物で、その実力は疑う余地もなかった。そして制作されたセカンド・アルバム『PYCHEDELICATESSEN』を94年にリリース。翌年、ドラマーをジェイ・ミッチッチに交代しライヴ・アルバム『LIVEDELICA』を発表。この直後、グリンとジェイは脱退し、MINDFEEDを結成する。
この後、97年のサード・アルバム『EXTINCT INSTINCT』でダミアンが電撃復帰し、リリース後に再度脱退。ヴォーカリストに独のメタル・バンド、SARGANT FURYのアンドリュー“マック”マクデルモットを迎え4作目『CLONE』(1998年)をリリース。その直後に世界最大級のメタル・フェス“WACKEN OPEN AIR”への出演も果たし、欧州での知名度もさらに上昇する。2003年の7作目『SUBSURFACE』はドイツのナショナル・チャート最高66位を記録。これはプログレッシヴ・ロックの作品としては異例の出来事であり、この評判からドイツのレーベルNUCLEAR BLASTとの契約が成立する。8作目『DEAD RECKONING』はドイツのナショナル・チャートで64位、イギリスのロック・チャートでは37位となる。
それまでメンバー・チェンジは度々行われていたが、2007年にはヴォーカリストのアンディが体調不良のため脱退、ダミアンがまたもや電撃復帰する。精力的にライヴ活動を行っていく中、2011年にアンディが腎不全のため死去するという悲報が届いた。しかし悲しみを乗り越え、2012年に9作目『March of Progress』、2014年に『For the Journey』をリリース。ヨーロッパ各国でチャートインを果たしている。
このバンドの魅力は、メタリックで重厚なツイン・ギター、シンフォニックなアレンジのキーボード・サウンド、そしてヴォーカルのキャッチー・メロディ・ラインにある。適度にヘヴィで耳障りが良いサウンドも人気の要因である。
2017年には、11枚目のアルバム『レジェンズ・オブ・ザ・シャイアーズ』をリリース。2017年3月にバンドはダミアンの脱退を発表。それは円満的なものだったのだが、同時に1996年に脱退したグリン・モーガンの約20年ぶりの復帰も発表され、ファンを大いに喜ばせた。今作でも英国ロックの深い森を感じさせる重厚かつドラマティックに彩られた作風は健在で、長尺の曲でも聴き心地が良く、随所で見られるアレンジの構築センスに再び魅了される。当然、実力者であるグリンの歌には何の問題もなく、バンドの方向性にも一切の迷いはない。
2022年11月には、12枚目のアルバム『ディヴァイディング・ラインズ』をリリース。キーボーディストのリチャード・ウェストは、「前作の兄貴のようなアルバム。もっと暗くてメロディアスだけど」と語る。今回も10分超の大曲が2曲と、スレッショルドらしいプログレッシヴなメタルが炸裂。一方ヘヴィなパートはよりヘヴィに、メロディックなパートはよりメロディックにと、彼らの持ち味にはますます磨きがかかる。