ザ・ナイト・フライト・オーケストラ(以下TNFO)のそもそものアイディアが芽生えたのは2006年のこと。SOILWORKの6枚目のアルバム「STABBING THE DRAMA」に伴う北米ツアー中、ヴォーカルのビョーン“スピード”ストリッドとツアー・ギタリストだったデイヴィッド・アンダーソン(現在はバンドの正式メンバー)の2人が「自分達がいかに昔のハード・ロック、クラシック・ロック、AORが好きか」という話で盛り上がったことがきっかけだった。DEEP PURPLE、RAINBOW、KANSAS、BOSTON、FOREIGNER、JOURNEY、SURVIVOR、FLEETWOOD MAC、STEELY DAN、TOTO、そして彼らの母国の英雄であるABBA等について大いに語り合ったという。SOILWORKとしてステージに上がる前、あるいはステージで120%のエネルギーを出し切った後、ツアー・バスの中で彼らはビールを片手にそういったグループのアルバムやビデオを鑑賞していたようだ。
ツアーからスウェーデンに戻った彼らはデモ作りを開始、それと併行してメンバー探しにも着手した。彼ら2人のもとに集まったのはARCH ENEMYやSPIRITUAL BEGGARS等で活動しているシャーリー・ダンジェロ(ベース)、MEAN STREAKに在籍しているヨナス・カールズバック(ドラムス)、ビョーンの幼馴染みであるリチャード・ラーソン(オルガン、キーボード)といった面々だった。
それぞれ別のバンド活動等を抱えているため作業はすぐに進まなかったが、2011年の後半、彼らはアルバムのレコーディングに着手、そして完成して2012年に発表されたのがTNFOとしてのファースト・アルバム「INTERNAL AFFAIRS」だった。SOILWORKやARCH ENEMYといった肩書きからは想像のつかないクラシック・ロック・サウンドは驚きと絶賛をもって迎えられ、彼らとしてもTNFOの活動についての展望が開けたと感じたのだった。
2014年、ギターやコンガ、パーカッションを担当するセバスチャン・フォースルンドを6人目のメンバーとして迎えたTNFOは、セカンド・アルバムの制作に着手、翌2015年に「SKYLINE WHISPERS」を発表した。更なる飛躍と洗練を感じさせる仕上がりは高い評価が寄せられた。
2016年後半、それぞれの本業での活動が一段落ついたところで彼らはTNFOの3枚目のアルバム制作に着手、そして完成したのが『アンバー・ギャラクティック』だった。過去2枚の作風を継承しつつ曲作りとアレンジの面で更なる多様性と広がりを感じさせる仕上がりは、彼らの敬愛する70年代や80年代の音楽シーンのメインストリームを席巻したアーティスト達のスタイルを真正面から受け継ぐものだった。
その『アンバー・ギャラクティック』の発表から1年足らずの間隔でリリースされることになったのが、TNFOとしての通算4枚目のアルバム『サムタイムス・ザ・ワールド・エイント・イナフ』だ。これまでのスタイルを順当に受け継ぎながらも、時によりハードにロックし、時によりソフィスティケイトなアレンジが施された仕上がりとなっている。
2018年にはヨーロッパ・ツアーも実現。満を持して完成させたのが、2020年に発表された5枚目『エアロマンティック』である。ノリのいいナンバーを中心に、ハード・ロック・ナンバーからディスコ・ビートを取り入れた曲、パワー・バラード風のナンバー、きらびやかなシンセサイザーが入った曲など70年代後半から80年代の英米のヒット・チャートに入っていたような曲をイメージさせるナンバーが次々と登場する。どの曲もウェットな香りを漂わせているのもこのバンドの特徴で、これまで以上にダイナミックな楽曲が並んだ作品の仕上がりは、バンドの進化を感じさせる。