ヴェイダーの歴史は長く、結成は何と1983年にまで遡る。メタリカやスレイヤーがデビューしたその年、ヴェイダーはポーランドという共産主義国で産声をあげていた。80年代にも数本のデモを発表していた彼らだが、その名を一気に世界レベルにしたのが、90年リリースの『Morbid Reich』というデモである。当時、新たなエクストリーム・メタルの潮流としてデス・メタルが大きなムーヴメントとなっていた。そんな中、デス・メタルの要素をうまく取り入れたこのデモは「ポーランドにヴェイダーあり」と、世界中のマニアにその存在を知らしめる役割を果たしたのだ。結果、彼らは当時エクストリーム・メタル界最高峰のレーベル、イギリスのイヤーエイク・レコーズと契約。92年にファースト・アルバム『The Ultimate Incantation』をリリースし、さらに大きな人気を獲得するに至った。
ポーランドにも素晴らしいエクストリーム・メタル・シーンが存在することを世界にアピールしたのは、このヴェイダーだと言っても過言ではない。80年代、共産圏というカーテンの向こう側にいた国々のシーンの情報は、なかなか伝わって来なかった。もちろんDragonやKAT、Turboなど、ポーランドにも優れたスラッシュ・メタル・バンドが存在することは知られていたが、それはあくまでマニア内での話。今あるような「ポーランド=エクストリーム・メタルの盛んな国」という印象をもたらしたのは、やはりヴェイダーの功績なのである。
既に40年以上近いキャリアを誇る大ベテランのヴェイダーだが、そのキャリアの中では、サウンドの要とも言えるドラマーの逝去という悲劇に直面することもあった。だが彼らはそんな苦境にも負けず、精力的にツアーを続け、近年では2016年に11枚目のアルバム『ジ・エンパイア』、2020年に12枚目のアルバム『ソリチュード・イン・マッドネス』をリリース。オリジナル・アルバム以外にも、カヴァー・アルバムやライブ盤など数多くの作品をリリースしている。現在もなお、世界トップ・レベルのエクストリーム・メタルとして高い人気を誇り続けているのだ。
基本的にデス・メタルとカテゴライズされることの多いヴェイダー。確かに92年のアルバム・デビュー時はそれなりにデス・メタル色も強かったが、キャリアを重ねるごとに、その原点とも言える80年代スラッシュ・メタル色が表面に出てきているようである。結成が83年であるし、96年リリースのカヴァー・アルバム『フューチャー・オヴ・ザ・パスト』のチョイス(SlayerにCeltic Frost、Dark Angel、Sodom、Kreator!)を見れば、彼らのベースがスラッシュ・メタルであることは明白だ。