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1990年に結成されたイン・フレイムスは、アット・ザ・ゲイツやダーク・トランキュリティと並び“メロディック・デスメタル”を世界規模で拡散させ、日本でも絶大な支持を得ている御三家の一角である。
90年代初頭にイン・フレイムスが提示した、アイアン・メイデン+デス・メタルとでも言うべき斬新なそのスタイルは、同郷のダーク・トランキュリティやアット・ザ・ゲイツらとともに「イエテボリ・サウンド」と称され、全世界のメタル・ファンに衝撃を与えた。いわゆるメロディック・デス・メタルは、今でこそ当たり前のもの。しかし、スラッシュ・メタルが多かれ少なかれメロディを否定し、リズムを主体に聴かせる音楽であったこと、そしてデス・メタルがその過激化ヴァージョンであったことを考えると、そこにメロディを復活させるという発想は並みのものではなかったと言わざるをえない。ましてやそれが機能し、1ジャンルとして定着するなんて、誰も想像だにしなかったのである。96年の『The Jester Race』、97年の『Whoracle』などは、リリースから20年が過ぎた今もなお、メロディック・デス・メタルの聖典として崇められている。その後は『Colony』(99年)を1つの転換点とし、イン・フレイムスは音楽的な舵を大きく切っていくことになる。切々と歌い上げるクリーン・ヴォーカル・パートが増し、一方で北欧らしい叙情的なメロディは控えめに。ストレートに言えば、アメリカ市場を露骨に意識し始めたということ。00年の『Clayman』は、そんな彼らのニュー・サウンドの1つの頂点となった作品だ。続く『Reroute to Remain』(02年)では、さらにアメリカンなサウンドを聴かせ、また『Soundtrack to Your Escape』(04年)では、オルタナティヴ・ロックをも飲み込むなど、彼らの進化、変化は止まらない。06年の『Come Clarity』は、アメリカ路線に対する賛否を超越した彼らのキャリアを総括する内容で、新旧どちらのファンも狂喜させる傑作となった。
2014年発表の『サイレン・チャームズ』は過去最高となる全米チャート26位を記録、2016年には『バトルズ』を発表し多くのメタルファンを唸らせた。
2019年発表の『アイ、ザ・マスク』も例外ではない。前作『バトルズ』から約2年半ぶりとなる作品は、名盤『Come Clarity』を彷彿させる傑作だと素直に言える内容だ。久々にアンダース・フリーデン(Vo)とビョーン・イエロッテ(G)が一緒にスタジオ入りし、曲作りをしたという本作では、2人の化学反応が随所に聴かれる。まさに激情という表現がぴったりのイン・フレイムス節に磨きがかかっているだけでなく、アンダースのヴォーカルの進化も著しい。シャウト、クリーン両面でのパワー・アップに、多くの人が耳を奪われることだろう。 プロデュースは前作と同じくハワード・ベンソン、そしてミックスがクリス・ロード・アルジという最強タッグ。マスタリングはテッド・ジェンセンが担当であるから、当然プロダクション面も完璧だ。ダイハードなファンの期待をも軽々と上回る新たなる傑作となった。
2023年2月には、4年ぶりとなるニュー・アルバム『フォーゴーン』をリリース。
90年代メロディック・デス・メタル期への回帰を強烈に感じさせる、古き良きイン・フレイムスの香りが強烈に立ち込める作品だ。
「今のイン・フレイムスはちょっと…」という人にこそ聴いてもらいたい、これぞイエテボリ・サウンド!
そんな彼らは、現在もメタルシーンで確固たる存在感を示している。