カルト・オブ・ルナは1998年、スウェーデン北部の大都市ウメオにて結成。デビュー・アルバムのリリース時より英名門イヤーエイクとのディールを獲得しているという事実からも察することができるように、オルタネイティヴ・メタル/ハードコア、ことにアイシス以降のアトモスフェリック・スラッジに紐付けられる音楽性においては、ジ・オーシャン・コレクティヴと並びEU圏で最も成功を収めているバンドだ。クイックサンド、キャスト・アイアン・ハイクのような90sポスト・ハードコアやアンブロークン、チョークホールドといったニュースクール・ハードコア、エバリション・レコーズに象徴される激情ハードコアの拡散と深化から誕生したアイシスと同様、リフューズドのお膝元であるウメオで生まれたカルト・オブ・ルナもまた、90sハードコアが持ち合わせていた多様性からのフィードバックを多分に含んでいる。初期はウメオ・スタイル・ハードコアの伝説的存在であるセパレーションのメンバーを擁していたことや、ジェイコブ・バノン(コンヴァージ)主宰デスウィッシュ・インクからのリリースを持つストックホルムのアヴァンギャルド・スラッジ、スウィッチブレイドとのスプリット作品が初リリースであることからも、根の深さが伺える。
ただしカルト・オブ・ルナは、断じてアイシスの二番煎じなどではない。それは自身のレーベルからのリリース作品に厳しいまでの拘りを持つアーロン・ターナー(アイシス)が、早くからハイドラ・ヘッドよりカルト・オブ・ルナのシングルを世に送り出していたことが証明しているし、これまでリリースしてきた『カルト・オヴ・ルナ』(2001)、『ザ・ビヨンド』(2003)、『サルヴェーション』(2004)『サムウェア・アロング・ザ・ハイウェイ』(2006)、『イターナル・キングダム』(2008)といった作品群(いずれもイヤーエイクからのリリース)、そしてその集大成と称すべき傑作となった『ヴァーティカル』がなによりの証と言えるだろう。単なるアイシス・フォロワーとは一線を画す存在となった要因のひとつに、各メンバーの個性的な活動・経歴が挙げられる。アンドレアス・ヨハンソン(b)はデニス・リクセゼン(リフューズド)主宰ナイ・ヴォグからのリリースで知られるハイセンス・パンク・バンド、ザ・ヴィシャスの元メンバー。マグナス・リンドベルイ(dr)はサウンド・エンジニアとして腕を揮う傍らポイズン・ザ・ウェルからフィア・フォールズ・バーニングまで幅広くコラボレートする多彩な人物。エリック・オロフソンはグラフィック・デザイナーとしても活躍しているし(当然カルト・オヴ・ルナ作品のカヴァー・アートも手がけている)、トーマス・ヘドルンド(per)に至ってはかのフレンチ・インディポップの雄、フェニックスのサポート・ドラマーを長年務めている。そのすべてが深遠なるサウンドを持つカルト・オブ・ルナとしての制作に反映されているのだ。