カナダが生んだプログレッシヴ・ヘヴィ・ミュージックの奇才、デヴィン・タウンゼンドの新たな挑戦。
こんな紹介の仕方をすると、多作かつ多様な作風で知られるデヴィンが、またもやカテゴライズ不能な実験的プロジェクトを始動させたものと解釈されるかもしれない。いや、ある意味エクスペリメンタルで既存のジャンルからはみ出しているのは事実なのだが、いわゆるヘヴィさやメタリックな感触、過激な攻撃性などとはまったく無縁のもの。実際のところ、一部ではカントリー・ロックだとかアンビエント・フォークといった形容もされており、デヴィン自身は「霊にとりつかれたジョニー・キャッシュのような音楽」などと喩えていたりもする。
基本的にはデヴィンと、チェ・エイミー・ドーヴァルという女性ヴォーカリストによるデュオという成り立ちをしている。チェは2009年にリリースされたデヴィン・タウンゼンド・プロジェクト名義でのアルバム『KI(氣)』にも参加していた人物で、2014年リリースの『カジュアリティーズ・オブ・クール』でコンビを組むことになった。
デヴィンはこのプロジェクト始動のために数年前から曲作りやスタジオワークを重ねており、多くの北欧のミュージシャンなどが関わってきたという。そのなかにはスウェーデンのプログレッシヴ・ロック・バンド、KAIPAのメンバーで、フランク・ザッパ、ドウィージル・ザッパなどとの活動歴を持ちMESHUGGAHのギタリストであるフレドリック・トーデンダルが1997年に発表したソロ・アルバムにも参加していたドラマー、モーガン・オーグレンも含まれている。
こうした固有名詞を挙げてしまうとますます混乱を招くことになるかもしれないが、間違ってもMESSUGGAHのようなエクストリーム・ヘヴィ・ロックではない。繰り返すが、カントリー、フォーク、あるいはヒーリング・ミュージックとすら形容可能なものだ。
とはいえデヴィンは、ヘヴィ・ミュージックに飽きたわけではない。彼はこの『カジュアリティーズ・オブ・クール』と題されたアルバムに収録されている楽曲について「ヘヴィなものを追求するかたわら、すべてを終えてから深夜に作りたいものがこれなんだ」と説明している。さらには「70年代のAMラジオのような、バックグラウンド・ミュージックになるものにしたかった」とも。実際、フォーク・ミュージックは彼が少年期に親しんでいたもののひとつでもあり、いわば彼にとってのルーツ・ミュージックの一部ということにもなるだろう。