1947年1月15日、黒い服を好んだことから「ブラック・ダリア」と呼ばれていた女優志願のエリザベス・ショートの死体がロサンゼルスのLeimert Parkで発見された。死体は激しく損壊し、胴の部分で2つに切断され、さらに清められていたという。事件発覚後、新聞社にブラック・ダリアの所持品が送りつけられるなど、全米を震撼させた迷宮入りの猟奇殺人事件。この通称“ブラック・ダリア事件”に由来する恐ろしいバンド名を冠したのは、米ミシガン州ウォーターフォード出身のザ・ブラック・ダリア・マーダーである。
ブラック・ダリア・マーダーは、2000年の終わり頃にブライアン・エスクバック (G/バンドの全作曲、編曲を担当)とコリー・グレイディ(Ds)によって結成され、2001年1月に最終的なラインナップが形成された。その後トレヴァー・スターナド(Vo/全作詞を担当)が加入し、曲作りを開始。メンバーは流動的だったが、デイヴィッド・ロック(B)とジョン・ケンパイネン(G)が加入すると、初期のラインナップが完成した。デモ・テープを2本制作した後、Lovelost Recordsから4曲入りEP『A Cold Blooded Epitaph』をリリース。これがきっかけとなり、アメリカの名門メタル・レーベル、メタル・ブレイド・レコーズと契約し、2003年に1stアルバム『Unhallowed』でデビューする。
以後、彼らは2年周期でアルバムをリリースし、精力的にツアー活動を続けてきた。その結果、2011年発表の5thアルバム『Ritual』は米ビルボード総合ランキングで31位を記録するなど商業的成功も収めている。近年では2016年にライアン・ナイト(G)が脱退し、ブランドン・エリス(G)が加入するなど、ラインナップの入れ替わりが激しいバンドにもかかわらず、活動ペースは一切乱れておらず、2017年には通算8枚目となるアルバム『ナイトブリンガーズ』をリリース。全米チャート35位というヒットを記録した。
2020年には、ブランドン・エリスが制作作業に深く関わり、共同プロデューサーとしてもクレジットされた9thアルバム『ヴァーミナス』がリリースされている。
過去5度の来日公演を行っており、日本でも人気のザ・ブラック・ダリア・マーダー。彼らのサウンドは1stアルバムからほとんど変わっておらず、一作ごとに確実に進化をみせている。北欧のメロディック・デス/ブラックと、Morbid Angelに代表されるフロリダ産デスメタルやUSメタルコアからの影響が感じられるものだ。ギターは獰猛なリフを刻み、ドラムは狂気のブラストビート、高音と低音を絶妙に使い分けるグロウルがバンドに独特の雰囲気を与えている。すべてのパートが有機的に繋がりブルータリティを肥大させていくなか、時に荘厳なメロディが顔を覗かせ、聴く者の心を抉るのである。とくにトレヴァーの存在感は強烈で、ぽっちゃり体型にメガネの風貌、見た目とは裏腹のボイスから吐き出される凶悪な歌詞がインパクトを増大させている。アグレッションとリリシズムが、非常に高いレベルで見事に融合した音楽であるといえる。