殺人、放火、悪魔崇拝。恐ろしいイメージがつきまとうブラック・メタルであるが、そんな暗黒世界にも愛されキャラは存在する。アバスだ。91年、デモナスとともにイモータルを結成したアバスは、92年に『Diabolical Fullmoon Mysticism』でアルバム・デビュー。翌93年、当時レーベルメイトであったカナダのBlasphemy、ギリシャのRotting Christらとともに敢行したFuck Christ Tourは、世界初の大規模ブラック・メタル・ツアーとして伝説になっている。そんなイモータルは、「The Call of the Wintermoon」のPVがきっかけで、「一般の」人々からも注目を浴びることとなる。というのも、コープスペイントをしたアバスらが森の中を走り回るこのPV、本人たちの意志に反して、あまりに微笑ましかったからだ。もちろん、面白いことをしようという意図などあったはずはない。当時、恐ろしい悪魔崇拝集団として、ノルウェーの全国民がブラック・メタルに注目していた。そしてイモータルにも、朝のワイドショー(!)への出演依頼が来たのだ。「無料でPV撮影してあげるから」という条件に首を縦に振ったイモータルであったが、出来上がったPVを見てびっくり。完全に「面白PV」になってしまっていたからだ。だが、世の中わからないもの。図らずも、これがきっかけでイモータル人気は沸騰していくことになる。ギタリストのデモナスが重度の腱鞘炎にかかったため、『At the Heart of Winter』(99年)、『Damned in Black』(00年)、『Sons of Northern Darkness』(02年)の3枚では、ギター、ベース、ヴォーカルを担当という八面六臂の活躍を見せたアバス。中でも5枚目となる『At the Heart of Winter』は、イモータルの最高傑作との呼び声が高い名盤だ。だが、そんなアーティストとしての絶頂期であったはずの03年、イモータルは突如解散を宣言。ファンを驚かせた。結局は4年活動休止をしただけで、07年に復活。09年にはニュー・アルバム『All Shall Fall』を発表し、万事順調かと思わせた矢先、今度は何と、メンバー間で法的な争いが勃発してしまう。「イモータル」というバンド名は自分一人のものと主張するアバスと、メンバー全員で共有のものとするデモナスらとで対立。15年、結局アバスがイモータルを脱退。残ったデモナスとホルグがイモータルの名を継ぐことになった。一方のアバスは自らの名を冠した新バンドを結成。驚いたことに、Loud Park 2015で来日まで果たした。アルバム発表前にである。デビュー作『アバス』は、翌16年、フランスのシーズン・オブ・ミストからリリース、さらに2019年7月にはセカンド・アルバム『アウトストライダー』がリリースされた。
個性が強すぎる人物というのは、端から見ている分には楽しい一方、一緒に何かをするというのは容易ではなかったりするもの。おそらくは、アバスもそんなタイプなのであろうことは、イモータルの他のメンバーとの軋轢を見れば想像がつく。そして個人名義になった今も、アバスはアバスなようで、アルバム2枚目にして、すでにアバス以外のメンバーが総入れ替え状態。(ライヴのヘルプを含めれば、もうすでに10人を優に超えるミュージシャンが、「元アバス」という肩書を持っている!)キング・オブ・ヘルも、マスクをかぶっていたドラマーもいない。だが、アバスがいれば、アバスはアバスなのもまた事実。ファースト・アルバムではブラス・アレンジなども導入し、わりと幅広い音楽性を見せていたアバスだが、セカンド・アルバムではそういった多様性を封印。実にブラック・メタル然とした、それも80年代初頭のオールドスクール中のオールドスクール的アプローチを見せている。NWOBHMやヴェノム、初期バソリーを露骨に彷彿させる部分も少なくない。80年代への回帰としてのブラック・メタルという、90年代初頭のスカンディナヴィアのシーンに通底していたコンセプトを再確認させられる。