今や女性がエクストリーム・メタルのフロントを担うことも、当たり前になってきた。だが、80年代はそうではなかった。女性メンバー、ましてや女性ヴォーカリストを擁するエクストリーム・メタル・バンドというのは、決して多くはなかったのだ。そんな中、このドイツのホーリー・モーゼスは、女性ヴォーカリストをいち早くフィーチャーしたスラッシュ・メタル・バンドである。結成は80年。翌年、現在もバンドの顔を務めるサビーナ・クラッセンが加入。数多くのデモを発表した後、86年に『Queen of Siam』でアルバム・デビューを果たす。翌87年にリリースされたセカンド・アルバム『Finished with the Dogs』は、スラッシュ史に残る名盤として崇められている。その後5枚のアルバムを発表するも、94年に一旦解散。00年に再結成を果たすと、02年に復活アルバム『Disorder of the Order』をリリース。14年の『Redefined Mayhem』まではコンスタントに作品を発表してきていたが、その後リリースが滞っていた。
2023年、9年の時を経てアルバム『インヴィジブル・クイーン』をリリース。本作でも、ホーリー・モーゼスのスラッシュ・メタルが炸裂する。疾走こそが彼女たちの信条。とにかく最初から最後まで、とにかく速いこと。もちろん売りはスピードだけではない。フックの効いた適度にテクニカルなリフが随所に光り、元祖スラッシュ・クイーン、サビーナのヴォーカルはますますダーティに。だが、喜ばしいことばかりではない。今年還暦を迎えるサビーナは、これを機に引退を決意。本作はホーリー・モーゼスの最終作となる予定なのだ。まさに有終の美を飾るにふさわしい作品に仕上がった。