00年の後半、スラッシュ・メタルのリヴァイヴァルが起こった。いわゆるニュー・ウェイヴ・オブ・スラッシュ・メタルのムーヴメントである。その中で、ガマ・ボム、ウォーブリンガー、ボンディッド・バイ・ブラッドらとともに中心的役割を果たしたのが、イギリスのイーヴァイルである。
結成は99年。元々はメタル・ミリシアという名で、メタリカのカバーを中心にプレイしていた彼ら。04年に現在のイーヴァイルへと改名し制作したデモが、イギリスの大手レーベル、イヤーエイク・レコードの目にとまる。07年には『Enter the Grave』でアルバム・デビュー。イヤーレイクは、前述のニュー・ウェイヴ・オブ・スラッシュ・メタル・ムーヴメントのホームとなっていたこともあり、イーヴァイルはガマ・ボムやミュニシパル・ウェイストらと共に、スラッシュ・メタル界期待の新星として、多くの注目を集めることとなった。09年にはセカンド・アルバム『Infected Nations』をリリース。しかし、同年ヨーロッパ・ツアー中に、ベーシストのマイク・アレクサンダーがわずか32歳の若さで急逝するという悲劇に見舞われる。マイクの遺志をついだバンドは続行を決意。さらに『Five Serpent's Teeth』(11年)、『Skull』(13年)と2枚のアルバムをリリース。だがその後、ギターのオル・ドレイクが脱退するなどあり、バンドはしばらく沈黙を守ることになる。
18年に入るとオルが復帰。そしてオーストリアの大手、ナパーム・レコードと契約を交わしたイーヴァルは21年、8年ぶりとなる5thアルバム『ヘル・アンリーシュド』をリリース。彼らの復活を待ち望んでいたファンを狂喜乱舞させた。
2023年7月、6枚目のアルバム『ジ・アンノウン』をリリース。バンド史上最高速となった前作から一転、非常に作り込まれたダークすぎる作品になっている。スピードよりもヘヴィネスを重視。メロディックだが陰鬱なヴォーカル。それに呼応するように歌詞の内容も、鬱、喪失感、繰り返す悪夢など、非常に重い内容になっており、バンドが新境地を開拓しようとしていることは明らかだ。もともとメタリカのコピー・バンドとしてスタートした彼ら。『ジ・アンノウン』には80年代終わり〜90年代のメタリカの香りも強く漂う。「スラッシュ・メタルは速くなくてはならないなんて誰が決めた」と言わんばかりの、すっかり伝統芸と化したシーンへの挑戦状とも言える本作。一方でこの重さ、この暗さは、ヘヴィメタルの本質をズバリ突いたものであることも間違いない。