百花繚乱の様相を呈している21世紀のエクストリーム・メタル・シーン。当然、さまざまな先人たちの偉業の上に、それは成り立っているわけだが、スイスのセルティック・フロスト、あるいはその前身であるヘルハマーほど、その影響が多岐に渡るバンドも珍しいだろう。異常なまでにシンプルなギターリフ、そして女性ヴォーカルやクラシカル楽器等の導入。言い換えれば、極端なプリミティヴさとプログレッシヴさの融合という独特すぎるその世界観は、デス・メタル、ブラック・メタルはもちろん、ハードコアやグラインドコアなど、パンク界にも大きな影響を与えた。それだけではない。ストリングス、フレンチホルン、ティンパニ、オペラティック・ヴォーカルからリズムマシンまでをも取り込んだ、史上初のエクストリーム・アヴァンギャルド・メタル・アルバムである『イントゥ・ザ・パンデモニウム』(87年)は、ゴシック・メタルの元祖とも言える作品。この歴史的名盤は、パラダイス・ロストを経由し、オランダのザ・ギャザリングにインスピレーションを与えた。つまり、現在ヨーロッパで大きな人気を誇っているエピカ、ウィズイン・テンプテーションといったゴシック・メタルですら、ルーツを辿っていけばこのセルティック・フロストに行き着くのである。確かにヘルハマーやセルティック・フロストは、商業的な成功には恵まれなかったかもしれない。だが、その影響力はどんなビッグ・バンドたちにも負けないものなのだ。
08年にセルティック・フロストを脱退したトム・G・ウォリアーが始めたのが、このトリプティコンである。これまでに『Eparistera Daimones』(10年)、『Melana Chasmata』(14年)という2枚のアルバムをリリースしている。
20年には、フル・オーケストラをフィーチャしたライヴ作品『レクイエム(ライヴ・アット・ロードバーン2019)』をリリース。2019年4月12日、オランダのロードバーン・フェスティヴァルでプレイされた壮大すぎるレクイエム3部作。実はトム・G・ウォリアーは、86年の時点ですでに、このレクイエムの構想を持っていた。実際、前述の『イントゥ・ザ・パンデモニウム』には、その第1部にあたる「レックス・イレ」が収録されている。それから20年後にリリースされた『モノセイスト』のクロージング・ナンバー、「ウィンター」には、「レクイエム・チャプター3:フィナーレ」という副題がついていた。そしてこの度、ついに残された第2部が初お披露目となり、30年以上に及ぶトムの壮大なプランはリアル・オーケストラを起用するという完璧な形で完成を見た。
エクストリーム・メタルに何でもアリをもたらしたパイオニア自身が、30年の時をかけ、アヴァンギャルド・メタルの頂点を極めている。