オランシ・パズズはフィンランドのサイケデリック・ブラック・メタル・バンド。その歴史は意外と長く、結成は2007年にまでさかのぼる。09年に『Muukalainen Puhuu』でアルバム・デビュー。その後『Kosmonument』(11年)、『Valonielu』(13年)とリリースを重ねていくが、ブレイクのきっかけとなったのが16年の4枚目、『Värähtelijä』である。このアルバムがPitchforkを筆頭に欧米主要音楽メディアで軒並み絶賛されただけでなく、ジェイムズ・ヘットフィールド(メタリカ)のSpotifyお気に入りリストに入れられたことで、一気に大きな注目を浴びるようになったのだ。そして、この度エクストリーム・メタル界の最大手レーベル、ニュークリア・ブラスト・レコードと契約。2020年6月リリースの5枚目のアルバム、『鉤爪の主(Mestarin kynsi)』で日本初お目見えとなった。
もともとは実験的なロックバンドをやっていたユン-ヒス(Vo)であるが、エンペラーのライヴを見たことがきっかけで、オランシ・パズズを結成したという経緯からもわかる通り、彼らのスタイルはブラック・メタルという異端の音楽の中でもさらに異端。ベーシストのオントは自らの音楽を「予想を超えてワイルドにカラフルに精神的嵐」と表現している。ダークスローン、キング・クリムゾン、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、レディオヘッド、ケミカル・ブラザーズ。70年代プログレ、ジャーマン・ロック。さらにはフィリップ・グラスやスティーヴ・ライヒといったミニマリスト。彼らの音楽を形容するには、ありとあらゆるアーティストやジャンル名が総動員される。とても「サイケデリック・ブラック・メタル」の一言では片付けられるものではないが、その特徴的すぎるスタイルは、とりあえずは「サイケデリック・ブラック・メタル」とした上で、あとはご自身の耳で確認してもらうしかないのかもしれない。
際限なく増殖しつづけていったブラック・メタルというジャンルにおいては、すべてが試され、もう新たなスタイルが出てくる余地はない。そんなたわ事をあざ笑うかのようにオランシ・パズズはまったく新しい世界を我々に突きつける。彼らこそエクストリーム・メタルの最先端をゆくバンドだ。