スピード・メタルの元祖。バイブを使ってプレイする面白いバンド。映画の大ヒット。アンヴィルに関するイメージはさまざま。だが、そのいずれも真実。78年にリップスという名でバンドを結成した彼らは、81年にアンヴィルと改名。『Metal on Metal』(2nd、82年)、『Forged in Fire』(3rd、83年)といったアルバムは、スラッシュ前夜のメタル・クラシックとして、今も多くのファンを魅了し続けている。「Hard Lovin’ Man」、「Speed King」や「Highway Star」といったディープ・パープルのスピーディな曲を独自に解釈した結果生まれたという彼らの初期の楽曲群は、スピード・メタルの元祖としてスラッシュ・メタルの誕生に一役買っているのだ。斬新な楽曲、エネルギーあふれる演奏、そしてフロントマン、リップスによるバイブを駆使したギター・プレイ。アンヴィルは一躍時代の寵児となる。84年11月に開催された『スーパーロック'84』で来日した彼らは、ホワイトスネイク、MSG、スコーピオンズ、ボン・ジョヴィらと共演。ここ日本でも大きな話題となった。
そんなアンヴィルが2度目のブレイクを果たしたのが、09年のこと。『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』という映画が、メタル・ファンの枠を超え大ヒットしたのだ。通常ロック・バンドのドキュメンタリーと言えば、その華々しさこそがメイン・テーマとなるもの。だが、アンヴィルはその真逆を行った。鮮烈なデビューを飾りながらも、その後ブレイクには至らず。給食配給センターで働きながらもバンドを続けるリップス。張り切って出かけたヨーロッパ・ツアーでは、1万人の大会場に200人以下の観客しか集まらない。借金までして作ったアルバムには誰も興味を示さない。悲惨としか言いようがない「現実」をさらけ出した異例のドキュメンタリー。だが、それが世界中の多くの人の心をとらえたのだ。
映画のヒットで吹っ切れたアンヴィル。その後は『Juggernaut of Justice』(11年)、『Hope in Hell』(13年)、『Anvil is Anvil』(16年)、『Pounding the Pavement』(18年)とコンスタントにアルバムをリリース。そして、この度18枚目となる『リーガル・アット・ラスト』が発売される。「ついに合法に」というアルバム・タイトル、そしてボングを手にした天使。18年10月、アンヴィルのホーム・カントリー、カナダではマリファナ販売・使用は合法化されたのだ。だが、本作はマリファナを手放しで称賛するものではない。ここで扱われるテーマは非常に社会的なもの。プラスチック・ゴミ問題、行き過ぎた監視社会、ケムトレイル。マリファナも含め、現代社会が抱える問題に、鋭いメスが入れられる。彼らのデビュー作、『Hard 'n' Heavy』が1曲残らずセックスと女性についての歌であったことを考えると、これは大きな変貌と言えるだろう。
一方で、音楽の方はまさにアンヴィルとしか形容しようのないアンヴィルぶり。ファンがアンヴィルに何を求めているか。自分たちがファンに何を提供できるか。そのいずれも熟知している彼らは、良い意味で「新しいこと」を拒否しているのである。スピーディなもの、ヘヴィなもの、ロックンロールなもの。いつも通りのバラエティ。いつも通りのハイエナジー。聴けばすぐにそれとわかるアンヴィル節で埋めつくされている。古くからのアンヴィル・ファンも、映画で彼らのファンになった人たちも、みんなが安心して聴ける素晴らしいロックンロール、そしてヘヴィメタル作品だ。
そんな彼らが24年に2年ぶりとなるニュー・アルバム、『One and Only』をリリース。この度、日本盤もお目見えすることとなった。20枚目となる本作も、当然いつものAnvil節満載!