AMARANTHEを脱退したジェイク・E[vo]、IN FLAMESを脱退したイェスパー・ストロムブラード[g]によって2016年に結成されたスウェーデンのサイラ。いわばスーパー・バンドだ。長年の友人である2人は、それぞれソロ・アルバムを作ろうとしていた。しかし、久しぶりに会ってお互いのアルバムの構想について話していたところ、同じようなものを目指していることに気付く。そこで、「だったら一緒に作ろうぜ」という話になった。その時未だジェイクはAMARANTHEに在籍していたが、既にかなり前から脱退することを考えており(ツアーに参加しないこともあった)、サイラ結成が直接的な理由ではないと断言した。
ともあれこうしてサイラは誕生。まずはジェイクがANNHILATORやLUCA TURILLI’S RHAPSODYといった数多くのバンドで腕を奮ってきたアレックス・ランデンバーグ[ds]をイェスパーに紹介して迎え入れる。続いて(おそらく)イェスパーがピーター・イワース[b]に声を掛ける。その時ピーターは未だIN FLAMESに在籍していたが、ハードなオン・ザ・ロード生活に疲弊しており、脱退を決めていた。そして、それを実行に移したところでサイラからの申し出を受ける。イェスパーが自らのリーダー・バンドとも言えるIN FLAMESを脱退した理由は“長期のツアーに出ると依存症が悪化するから”であるため、サイラは“それ”をやらないことを前提にしていた。そういった意味でも、ピーターにとっては理想的なバンドだった。少なくとも、この時点では。
デビュー・アルバムは、2017年にリリースされた。“それぞれの曲はどれも自分に宛てた手紙のよう”ということでイェスパーが思い付いた言葉にジェイクが「まさに!」と同意して「LETTERS TO MYSELF」というタイトルが付けられたこのアルバムは、全曲にジェイクとイェスパーの名前がクレジットされており(日本盤ボーナス・トラックの“Forever”を除く)、2人の魅力に溢れたアルバムだ。メロディックでメランコリックでドラマティックで、シンセサイザーがポップでモダンなタッチを加えていた。イェスパーと初期IN FLAMESのファンから「もう少しイェスパー色を出して欲しかった」という声が上がったように、全体としてはジェイクがメイン・ソングライターを務めていたAMARANTHE色が強かったが、それでもギター・リフの随所にイェスパーらしい初期メロディック・デス・メタルの要素があった。いずれにせよ、ここ日本でも非常に高く評価された。バンド唯一のリード・シンガーになったジェイク(知ってのとおり、AMARANTHEはトリプル・ヴォーカル編成)のAMARANTHE時代には想像出来なかった多彩な歌い方も絶賛された。なお、アルバムには当時SHININGにいたオウゲ・ヴァロヴィルタがゲスト参加しており殆どのギター・ソロを弾いていたが(イェスパーが弾いているのはソロと言うよりもギター・メロディ的なもの)、アルバムがリリースされた頃には正式メンバーとして加入していた。
同年10月27日にはフィンランドのヘルシンキで初のヘッドライン・ショウを行ない、2018年にはライヴ活動も活性化していく。イェスパーは「サイラを世間に認めてもらえるバンドにしたいという熱意は当然あるけど、IN FLAMESほどにはツアーをやるつもりはないよ」と語っていたが、この年アメリカとヨーロッパで35本以上のショウを行なっている。しかし、ツアー開始早々にピーターが脱退。この年はスウェーデンで2回プレイしてからアメリカに飛んでいるのだが、既にその時点でピーターはいなかったようだ。バンドは後任を入れずに4人編成でやっていくことを宣言。ライヴ映像を観る限りでは、ベースは同期で流しているようだ。その後、イェスパーも一時離脱してしまい、イェスパーの後任としてIN FLAMESに加入したニクラス・エンゲリン率いるENGELのマーカス・スーネソンが代役を務めた。その後イェスパーは一旦ツアーに戻ったものの再び離脱しており、おそらく今も状況に変化がなければライヴではマーカスがプレイしているはずだ。イェスパーは脱退したわけではないが、家庭の事情があったり、メンタルとフィジカルのコンディションに波があったりして、ツアーをコンスタントに続けるのは難しいようだ。
そんな状況ではあったが、2019年11月発表の2ndアルバム「ノー・ヘイローズ・イン・ヘル」の制作は2018年のかなり早い段階から始まり、レコーディングは8月から10月に掛けて行なわれている。勿論、制作にはイェスパーも全面的に参加。ベースはオウゲが弾いた。
サイラはイェスパーの不安定なところも受け入れているようで、それに対処する体制も整えているので、今後はこれまで以上のペースで活動していくことになるのかもしれない。是非とも日本にも来てもらいたいものだ。