
70年代のロサンゼルスに、有名ミュージシャンたちが集う秘密のクラブが存在した。場所はハリウッドにあるバー、レインボー・バー・アンド・グリルのロフト。入会の儀式は、他のメンバー全員が酔いつぶれるまで酒を飲むこと。ジョン・レノン、リンゴ・スター、キース・ムーンにキース・エマーソンといった名だたるミュージシャンたちが参加していたというこの秘密のクラブを主催していたのは、アリス・クーパーであった。いつしかその参加者たちは、ザ・ハリウッド・ヴァンパイアーズと呼ばれるようになっていた。
40年の時を経たのち、アリス・クーパーは伝説のハリウッド・ヴァンパイアーズを復活させるべく、ジョニー・デップとジョー・ペリーというセレブすぎる仲間を集めた。そして、今回は秘密のクラブではなく、そのスピリットを継承するスーパースター・バンドを始めた。ポール・マッカートニー、ブライアン・ジョンソン、ジョー・ウォルシュ、スラッシュ、デイヴ・グロールにクリストファー・リーといった、これまたあまりに豪華なゲストを多数迎え、15年にリリースされたそのデビュー・アルバム『Hollywood Vampires』は、ザ・フー、レッド・ツェッペリンやドアーズ、ジミ・ヘンドリックスら、伝説のアーティストたちのカヴァーを多数収録。「70年代の狂騒の果てに死んでいったロック・スターたちを称える」というコンセプトを、見事に体現した傑作となった。同年9月、ハリウッド・ヴァンパイアーズはライヴ・デビューも果たす。ロキシー・シアターという名門会場で行われた本コンサートでも、ダフ・マッケイガン、マリリン・マンソン、ギーザー・バトラーといった超一流のミュージシャンたちが登場。伝説の名に恥じぬゴージャスなステージとなった。
そして2019年には、4年ぶりとなるセカンド・アルバム『rise』を発表。オリジナル曲を満載した2枚目は、ハリウッド・ヴァンパイアーズのアイデンティティを確立するアルバム、すなわち完全なる現在進行形の作品に仕上がっている。
アリス・クーパーにジョー・ペリーというロック界の生ける伝説。そしてジョニー・デップというミュージシャン顔負けのギター・テクを持つ超スーパースター俳優。そんな3人が集まって、生半可な作品などできるはずもない。セレブたちの暇つぶしだと思ったら、大間違いだ。「世界一ギャラの高いバー・バンド」がぶちかます極上のロックを聴けば、21世紀に蘇ったハリウッドの吸血鬼たちが、かつてのロックの黄金時代の復活をも企てていることがわかるはず。メンバー全員が曲作りに参加したという本作には、3人の個性が明確に反映されている。