エンフォーサーはスウェーデンの中西部に位置するノルウェーとの国境に程近い街、アルヴィカ出身。2004年の活動開始時はオロフ・ヴィクストランド個人によるレコーディング・プロジェクトであり、オロフ1人でヴォーカル、ギター、ベース、ドラムスという全てのパートを担当していた。2005年に制作した『ENFORCER』や『EVIL ATTACKER』という2本のデモや2007年制作の7インチ・シングル『EVIL ATTACKER c/w MISTRESS FROM HELL』等をきっかけとしてアメリカのインディペンデント・レーベルHeavy Artilleryとコンタクトを取るようになりエンフォーサーとして同レーベルから2007年にリリースされたコンピレーション・アルバム『SPEED KILLS…AGAIN』に参加した。Heavy Artilleryからアルバム発表の話が持ち上がると、オロフはエンフォーサーをバンド形態で活動していくことを決断した。彼自身がヴォーカルを担当、そしてオロフの実の弟であるヨナス(ドラムス)、アダム・ザース(ギター)、ヨセフ・トール(ベース)という3人のミュージシャンを加入させてバンドとしてのエンフォーサーが完成した。
そして2008年、彼らは最初のフル・アルバム『INTO THE NIGHT』を発表、初期IRON MAIDEN、EXCITER、RAVEN、初期METALLICA等を想起させるスピーディーなヘヴィ・メタル・サウンドは世界中のマニアの間で瞬く間に評判となり、ここ日本の輸入盤市場でもベストセラーを記録した。2008年にはヨセフがベースからギターにスイッチ、新たなベーシストとしてトビアス・リンドクヴィストが加わってツイン・ギター編成の5人組となった。その5人で制作したのが日本でのデビュー・アルバムとなったセカンド・アルバム『DIAMONDS』であり、このアルバムの発表後、彼らは初の日本ツアーを実現させた。その超アクティヴでアグレッシヴなライヴ・パフォーマンスは日本の聴衆から絶賛が寄せられ、世界ツアーも大好評、彼らは新世代ヘヴィ・メタルの旗手としての地位を確かなものとしたのだった。
しかしながら、日本ツアーの直後、ギタリストのアダムがバンドから脱退、エンフォーサーは敢えて後任ギタリストを迎えることなく、オロフがギターとヴォーカルを兼任しての4人編成で活動を続けていくことになった。その4人で制作したのが2013年発表のサード・アルバム『DEATH BY FIRE』だった。このアルバムも好評を博し、彼らは長期のヨーロッパ・ツアーに出発、南米での巡業も大成功に終わらせている。同年10月に彼らは再来日、「LOUD PARK」の大舞台を経験している。
2015年、彼らは音楽面での広がりを明確に示し出した4枚目のアルバム『FROM BEYOND』を発表、これも高く評価された。同年11月には三度目の来日が実現、「JAPANESE ASSAULT FEST」にてヘッドライナーを務めたが、この時ギタリストのジョセフが個人的な理由により同行出来ず、バンドには臨時要員としてLETHAL STEELのジョナサン・ノルドウォールが加わっていた。同年12月、彼らは初の公式ライヴCD/DVD『LIVE BY FIRE』をリリース。DVDには2013年の「LOUD PARK」出演時の映像が、CDにはギリシャ公演でのライヴ音源と新録3曲がそれぞれ収録されていた。
『FROM BEYOND』のツアーを終えた彼らは、いつにも増して曲作りに時間を費やすことになった。そして曲作りや録音等の全ての行程で2年半をかけて完成させたのが、エンフォーサーとしての通算5枚目のスタジオ・アルバムとなる2019年4月発表の『ゼニス』である。前作の発表から4年以上の間隔が空くというのは異例のことでもある。
オロフ自身、「単にアルバムをもう1枚作ろうとしたのではなく、どんな限界も伴わない不朽のヘヴィ・メタル・アルバムを作ろうと意識した。『ゼニス』は間違いなく、俺達が取り組んできた中で最も野心的なプロジェクトだ」と自己分析している。ここにはエンフォーサーの真骨頂である爆発的な疾走感を伴うスピード・メタル・ナンバーも収録されているが、それ以外にもプログレッシヴな構成で聴かせるエピック・スタイルの曲、メランコリックなメロディに彩られたバラード、80年代のポップ・メタル・バンドを想起させるコマーシャルなタイプの曲等々、彼らがこれまで受けてきた影響とインスピレーションが様々な形で反映されている。オロフの言うとおり、エンフォーサーにとって最も野心的なアルバムであり、彼らの名前をより広く、より深く印象づけていく作品となった。
2023年5月には4年ぶりのアルバム『ノスタルジア』をリリース。前作『ゼニス』は、エンフォーサーにしてはバラエティに富んだアルバムという印象であったが、今回は一転、初期への回帰とでも言うべき作品に仕上がっている。オロフも「妥協なきヘヴィメタル・アンセムが詰まったバック・トゥ・ルーツ的アルバム」だと名言している通り、純度100%のメタル作品だ。レコーディングもアナログにこだわったという、まさにタイトル通りのアルバム。