イアン・ギランについて、多くの説明は必要ないだろう。ディープ・パープルの『イン・ロック』、『ファイアーボール』、『マシン・ヘッド』や、ブラック・サバスの『ボーン・アゲイン』など、数々の歴史的名盤に関わった稀代のヴォーカリストであるイアン・ギランは、16年にはディープ・パープルの一員として、ロックの殿堂入りも果たしている。
そんなイアン・ギランが60年代、ディープ・パープル加入以前にやっていたバンドが、ザ・ジャヴェリンズである。当時はライヴ活動をしていたのみで、録音作品は残さずに解散。ところが30年の時を経た94年、突如イアン・ギランはザ・ジャヴェリンズを、それも60年代と同じラインナップで再結成する。そしてリリースされたのが、『Sole Agency and Representation』というアルバムであった。収録された14曲はすべてカヴァー。チャック・ベリーや、スモ―キー・ロビンソンらによる、60年代にザ・ジャヴェリンズがレパートリーとしていた名曲が詰め込まれたこの作品は、多くのギラン・ファンを驚かせ、また楽しませた。
そのイアン・ギラン・アンド・ザ・ジャヴェリンズが再び集結し、24年ぶりの新作、その名も『イアン・ギラン・アンド・ザ・ジャヴェリンズ』を2018年8月にリリースした。今作も、60年代と同じラインナップ、そして収録曲すべてがカヴァーだ。60年代初めは、ザ・ビートルズも、ザ・ローリング・ストーンズも、カヴァー中心のステージをやっていた。そしてもちろんザ・ジャヴェリンズも例外ではなかった。1963年ころ、つまりイアン・ギランがまだ18歳であったころのセットリストを再現したという本作は、チャック・ベリー、ザ・ドリフターズ、ジェリー・リー・ルイス、レイ・チャールズ、ボ・ディドリーといったアーティストへのトリビュートとでも言うべき内容。重要なのは、このアルバムは、決して懐古趣味を意図したものではないということ。イアン・ギランを除く4人のメンバーは、ザ・ジャヴェリンズ解散後、ミュージシャンとしての道を歩んでいない。しかし、どれだけ時間が過ぎていようと、5人が集って楽器を手にすれば、あっという間に60年代に逆戻り。あの頃と何ひとつ変わらない演奏が、自然とあふれてくる。気がつけば、レコーディングに臨むイアン・ギランも、18歳のころと同じ気持ちに戻っていたのである。ハンブルクのカメレオン・スタジオで行われた本作のレコーディングは、わずか5日間で終了。出来上がったものは、まさに63年のザ・ジャヴェリンズそのもの。というよりも、それ以外のものになるはずもない。故意にレトロな雰囲気を作り出す必要性など、まったくなかった。『イアン・ギラン・アンド・ザ・ジャヴェリンズ』は、まったくの自然体で作られた作品だ。