フランス産クロスオーヴァー・バンド、ライズ・オブ・ザ・ノーススター。クロスオーヴァーと一口にいっても、いろいろなスタイルがある。だが、メタルとラップ、ハードコア・パンク、そしてマンガをクロスオーヴァーしているのは、世界広しと言えど、ライズ・オブ・ザ・ノーススターくらいのものだろう!
ライズ・オブ・ザ・ノーススターは、「日本のマンガにインスピレーションを受けたフランスの若者5人がアメリカの音楽をプレイする」というコンセプトで、2008年に結成された。メンバー全員が学ランに身を包み、歌詞のあちこちに日本のマンガネタがちりばめられている。そもそもバンド名からして『北斗の拳』なのだから、これはとても他人事ではない。ちなみに学ランスタイルは、『スラムダンク』や『ルーキーズ』からのインスパイアなのだそう。デモやEPをいくつかリリースしたのち、14年に『Welcame』でアルバム・デビュー。メタルやハードコアの作品とは思えないアニメ・アートワーク、そして「暴走族」なんていう横浜銀蠅でもつけないであろう直球すぎる曲名のインパクトはあまりに強烈。ここ日本でも、ライズ・オブ・ザ・ノーススター・マニアは増殖していった。
2018年には、4年ぶりとなるセカンド・アルバム『ザ・レガシー・オブ・シ〜SHIの伝承』をリリース。
この『SHIの伝承』という邦題は、日本側でつけたものではない。アルバム・タイトルはもちろん、すべての曲に、あらかじめ邦題がついているのだ。「SHI」は士であり、師、四、死、詩、いずれでもある。ライズ・オブ・ザ・ノーススターは、「SHI」という言葉に複数の意味があることをきちんと理解した上で、これを利用するために、あえてアルファベット表記にしているのだ。その解釈は、リスナー次第。そしてまた「SHI」とは、本作品のストーリーの中心となるキャラクターの名前でもある。そう、『SHIの伝承』はコンセプト・アルバムなのだ。「SHI」というサムライ(士)に憑依されたヴォーカリストのヴィティア。架空のキャラクターとヴィティアの実人生が交錯し、アルバムのストーリーは展開していく。もちろん『北斗の拳』、『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』、『ドラゴンボール』など、おなじみのマンガからの引用も、随所にちりばめられている。
その風貌やイメージだけで、ライズ・オブ・ザ・ノーススターをただのイロモノ・バンドだなんて思ったら大間違いだ。その実力は、Agnostic FrontやMadballといった、ガチガチのニューヨーク・ハードコア勢がお墨付きを与えるほど。今回の『SHIの伝承』も、「音作りにとにかく時間をかけた」とヴィティアが豪語するだけあり、とにかくヘヴィでグル―ヴィーでダークなクロスオーヴァー・サウンドに仕上がっている。バイオハザードに初期マシンヘッド、スリップノットのようなエクストリームなサウンドに、ウータン・クランのようなラップを掛け合わせ、さらに日本の熱血マンガの世界観を混ぜ合わせた本格派。それがライズ・オブ・ザ・ノーススターだ。
日本が大好きな彼らは、Japan Expo 2016を含め、すでに何度も来日済み。東日本大震災後には、「Phoenix」という震災チャリティ曲まで発表している。ライズ・オブ・ザ・ノーススターは、ここ日本でこそもっともっと知られるべきバンドだ。
2023年には5年ぶりのアルバム『ショウダウン』をリリース。さらにグルーヴ感の増したサウンドにも磨きがかかっており、「圧倒的にバンド史上最高の作品」と彼らが豪語するのも納得の仕上がり。ミックスを担当したのはGojiraとの仕事で知られるヨハン・メイヤー。マスタリングは巨匠テッド・イェンセンの手によるもの。