フォロー・ザ・サイファーは、スウェーデンのファルン出身。ファルンという地名を聞いて、ヘヴィ・メタル・ファンの中にはピンと来る人もいるかもしれない。そう、あのサバトンの出身地である。出身地が同じというだけでなく、フォロー・ザ・サイファーは、サバトン・ファミリーでもあるのだ。何しろリーダーは、彼らの『Carolus Rex』(12年)や『The Last Stand』(16年)の曲作りにも参加していたケン・シェングストロム。18年のサバトン来日公演でも披露された『Carolus Rex』のタイトル曲を、ヴォーカリスト、ヨアキム・ブロデーンとともに書き上げたときに、ケンは確信した。自分には曲を作る才能がある、自分自身のバンドを持つべきだと。そして生まれたのが、このフォロー・ザ・サイファー。結成は14年5月と比較的最近だが、ケンの経験値は誰よりも高いのだ。
サバトン・ファミリーとは言え、「フォロー・ザ・サイファー」という名は、意味も語感も本家のそれとは異質だ。3つの単語からなる「暗号に従え」とでも訳すべきバンド名は、サバトンとのつながりを見いだせないどころか、むしろオールド・スクール性皆無の21世紀的なネーミング。彼らのコンセプトは、アルバム・ジャケットにも表現されているとおり、ポスト・アポカリプス、すなわち終末後の世界である。(ちなみにジャケットは、サバトンのクリス・ローランドの手によるもの。)彼らは音楽やアートワーク、そしてルックスも含め、終末後の風景を再現。そのアイデンティティはサバトンとは別の、彼ら独自のものだ。
そんな彼らは、2018年6月デビュー・アルバム『フォロー・ザ・サイファー』をリリース。「ヴィジュアルでシネマティック」とケンが言うとおり、エピックなメロディと切れ味鋭いリフにあふれ、とにかく不吉でシンフォニックな作品だ。ヘヴィなギターに荘厳なシンセサイザー、そして近未来的なディジタル・シークエンス。その作り込まれた世界観は、まさに核戦争後の地球の姿そのものだ。ハンス・ツィマーをはじめ、映画音楽からも大きく影響を受けているというのも納得である。女性ヴォーカリスト、リンダ・トニ・グラーンによるパワフルなヴォーカルに加え、男性ヴォーカル、デス声、クワイヤ的コーラスが縦横無尽に飛び回るさまは、ナイトウィッシュをも彷彿させる。シンフォニックでパワフル、そしてサバトンゆずりのポップさをも持ち合わせたフォロー・ザ・サイファーの音楽――彼らに言わせればサイファー・メタル――は、幅広い層のファンにアピールすること間違いなしである。
ちなみに『フォロー・ザ・サイファー』は、いきなりヨーロッパの最大手メタル・レーベル、ニュークリア・ブラスト・レコーズからのリリース。もちろんリーダーがサバトンがらみであったというアドヴァンテージはあっただろう。だが、レーベルが契約に踏み切った一番の理由は、そのステージにおける強力なプレゼンスだったのだそう。サバトン主催のフェスティヴァル、Sabaton Open Air 2017で彼らのステージを経験したニュークリア・ブラストのA&Rは、まずリンダの圧倒的な存在感に一目ぼれ。さらにその音楽性はもちろん、映画『マッドマックス』を思い起こさせる凝った衣装にいたるまで、ポスト・アポカリプスというコンセプトが徹底されたステージングに完全KOされたのだ。しかもこのとき、実はまだ2度目のステージだったというのだから、フォロー・ザ・サイファーのポテンシャルの高さには驚かされる。