89年は、エクストリーム・メタル・ファンにとって衝撃的な年であった。まずEarache Recordsから、『Grindcrusher』という、予告編とでもいうべきオムニバス・アルバムが投下された。Morbid AngelにTerrorizer、Repulsionといったアメリカ勢。そしてNapalm Death、Carcass、Bolt Throwerらイギリス勢がズラリと並んだこの作品。今でこそ彼らはみなビッグネームだが、当時は極一部のアンダーグラウンド・マニアだけに知られた存在。あのとき、このオムニバスから受けた、知名度とはまったく反比例した衝撃度合は、とても言葉では言い表せない。 87~88年にすでにNapalm DeathやCarcassはデビューしていたから、グラインドコアにもブラストビートにも馴染みはあった。だが、それでもこれに収録されていた楽曲は、我々の想像のはるか上をいく激しさを誇っていた。聴いたこともないような楽曲が、これでもかと詰め込まれていたのである。その後、次々と衝撃的なアルバムが発表されていく。Morbid Angelの『Altar of Madness』、Carcassの『Symphonies of Sickness』、Terrorizerの『World Downfall』、Bolt Throwerの『Realm of Chaos: Slaves to Darkness』。今でも名盤の誉れ高い傑作の数々だ。今思い出しても血が煮えたぎる、あの89年から約30年。その間Napalm DeathやCarcassはもちろんMorbid Angel、そしてTerrorizerに至るまでが来日。時代は変わったものだ。だが、Bolt Throwerだけは日本の地を踏むことがないまま、16年に解散をしてしまった。 Bolt Throwerは86年に結成され、88年に『In Battle There Is No Law!』でアルバム・デビュー。翌89年、Earache Recordsに移籍。前述のセカンド・アルバム『Realm of Chaos: Slaves to Darkness』は、あまりにヘヴィすぎて世界中のエクストリーム・メタル・マニアが仰天せざるをえなかった。その後彼らは05年の『Those Once Loyal』まで、トータルで8枚のアルバムを発表。だが、08年に9枚目のアルバムを製作中に破棄。ニュー・アルバムを待ちわびるファンは多かったが、15年にドラマーのMartin Kearnsが急逝。バンドは翌16年に解散を決断したのである。
Bolt Throwerのスタイルは他の初期Earache勢に比べると、スピードよりもヘヴィさを重視、リフ自体が持つグルーヴで聴かせるタイプであり、そのスタイルは決して派手なものではなかった。そしてその本領発揮の場は確実にライヴであっただけに、余計ここ日本には衝撃が伝わりづらかったかもしれない。だが、スラッシュからデス、グラインドコアからアナーコ・パンク、クラストまでをも飲み込んだ彼らのスタイルは、エクストリーム・メタル・ファンはもちろん、ハードコアやクラストといったパンクのファンからも絶大な支持を得ている。"Bolt Thrower Worship"と言われるクローン・バンドを世界中に生み出すほど、つまり1バンドで1ジャンルを形成してしまうほど、彼らのオリジナリティ、影響力は突出している。
そんなBolt Throwerの遺志、遺伝子を継いでいるのが、メモリアムである。まずヴォーカリストが、Bolt Throwerでもフロントマンを務めていたカール・ウィレッツ。そしてドラムも94年までBolt Throwerで活躍していたアンディ・ホエール。残る2人、ギターのスコット・フェアファックス、ベースのフランク・ヒーリーは、ともにBenedictionのメンバー。フランクにいたっては、Sacrilegeのメンバーでもある。Bolt ThrowerにBenediction、Sacrilegeと聞かされて、心が躍らないデス・メタル・ファンはいないだろう。
メモリアムは16年、亡くなったMartin Kearnsへの追悼を目的として結成された。何しろこれだけのメンツで結成されたバンドだ、あっという間にNuclear Blastとの契約を手にしたかと思うと、翌17年にはデビュー・アルバム『For the Fallen』をリリース。そしてそれからわずか1年、18年にはセカンド・アルバム『ザ・サイレント・ヴィジル』をリリース。Bolt Thrower時代の寡作ぶりが嘘のようだ。(Bolt Thrower時代は、ラストの10年超ニュー・アルバム無しである。)
結成以来、『For the Fallen』(17年)、『The Silent Vigil』(18年)、『Requiem for Mankind』(19年)、『To the End』(21年)と、ボルト・スロウワー時代からは考えられないハイペースでアルバムをリリースしてきた。
23年2月には5枚目となるアルバム『ライズ・トゥ・パワー』をリリース。リーパー・エンターテインメントに移籍しての第一弾となるアルバムだが、当然メモリアムは今回もメモリアム。これぞUKデス・メタルとしか言いようがない、オールドスクール・デスを聴かせる。ヘヴィでグルーヴィ、時にドゥーミー。そしてこのクラスト臭は、イギリスからしか生まれ得ない。