1983年のデビュー以来、ミニストリーは『ザ・マインド・イズ・ア・テリブル・シング・トゥ・テイスト』(1989)、『詩編69』(1992)などの名盤で暴力的なヘヴィネスの襲撃と冷徹なマシン・ビートを融合させ、インダストリアル・メタルの礎を築いてきた。ナイン・インチ・ネイルズやフィア・ファクトリー、ラムシュタインなどに影響を与えながら、彼らは常に孤高の存在として前進を続けている。
『詩編69』の音楽性を継承する“詩編70”と呼ぶべき作風、あるいはサイケデリックで顔面に叩きつけるような“パンク・フロイド”的アプローチを兼ね備えているとアル・ジュールゲンセンが語る2018年リリースのアルバム『AmeriKKKant』。先行リーダー・トラックとして公開された「アンティファ」を筆頭に、情け容赦なく顔面に叩きつけるミニストリー流ヘヴィ・サウンドが全編貫かれている。
本作をさらに辛辣かつ攻撃的にしているのは、その政治的メッセージだ。『詩編69』の「N.W.O.」で当時のブッシュ大統領の提唱する“新世界秩序”を批判、『ハウジズ・オブ・ザ・モーレ』(2004)、『リオ・グランデ・ブラッド』(2006)、『ザ・ラスト・サッカー』(2007)の“ジョージ・W・ブッシュ三部作”では息子のジョージ・W・ブッシュ大統領を標的にした彼らだが、本作ではドナルド・トランプ大統領のアメリカとその欺瞞・ファシズム・金満主義へと音楽の銃弾を撃ち込んでいく。
1980年代からギタリストとして参加してきたマイク・スカッシアが2012年に亡くなったことで、アルは「もうミニストリーとしてのアルバムは作らない」と宣言していた。それを撤回せねばならなかったほどの怒りと切実さが、『AmeriKKKant』には込められている。
もはやベテランといっていいキャリアを誇るミニストリーだが、その座に安住することなく、新世代アーティストとの共闘も活発。2017年にはデス・グリップス、2018年にはチェルシー・ウルフとツアーを行うなど、その牙が鈍ることはない。