スーサイダル・メタル・バンド、シャイニングは、1996年、ニクラス・クヴァルフォルトを中心に、スウェーデンで結成された。(この当時、ニクラスはまだ12歳である!)98年にEP『Submit to Selfdestruction』でデビュー。現在ではニクラスの変幻自在の歌唱がバンドの大きな魅力の1つとなっているが、この時点では、彼はまだギターとベースのみを担当。ヴォーカルも担当するようになったのは、00年のデビュー・アルバム『Within Deep Dark Chambers』からである。いわゆるディプレッシヴ・ブラック・メタルと呼ばれる陰鬱なスタイルを追求したシャイニングは、世界中の心に闇を抱えたファンから熱狂的な支持を得た。
01年にセカンド・アルバム『Livets ändhållplats』を、前作と同じくSelbstmord Servicesから発表後、イタリアのAvantgarde Musicと契約。02年にリリースされた『III - Angst - Självdestruktivitetens emissarie』では、ドラムをあのヘルハマー(メイヘム等)が担当している。04年に4枚目のアルバム『IV - The Eerie Cold』をレコーディングするものの、同年8月に、突如解散を発表。だが、結局年末には再結成。『IV - The Eerie Cold』は翌年、05年3月にリリースされた。
06年にはニクラスが失踪。自殺の噂も流れる。同年8月、バンドはホームページにて、公式にニクラスが失踪したことを発表。シャイニングの公式スポークスマンというConny Jarlestalなる人物が、「わかっていることは、クヴァルフォルトが4週間行方不明ということだけ。すでにこの世を去っているかもしれないが、確かなことはわからない。彼は過去半年、非常に酷い鬱に悩まされていたのは事実」と告げ、同時に「ニクラスに非常に近い人物」から、「『グール』というヴォーカリストを加入させ、バンドを継続させることがニクラスの遺志である」という手紙を受け取ったことを明かした。結局翌年、その「グール」の正体がニクラスであることが明らかになるのだが…。
その後フランスのOsmose Productionsに移籍、『V - Halmstad (Niklas angående Niklas)』(07年)をリリース。もともとブラック・メタルらしからぬパートも少なくなかった彼らの音楽だが、このアルバムでプログレッシヴ・ロックやクラシック、ジャズといった幅広い音楽からの影響をあからさまに誇示。高い音楽性、オリジナリティを持った本作は、大きな話題を呼ぶこととなった。ベートーヴェンからウェスタン映画のサントラまでをも飲み込んだこのアルバムで、シャイニングはその後の方向性を高らかに宣言したと言える。09年に『VI - Klagopsalmer』をリリースすると、今度はフィンランドのSpinefarm recordsに移籍。11年には『VII: Född förlorare』を、12年には『Redefining Darkness』を発表。11年にリリースされたEP、「Förtvivlan, min arvedel」は、スウェーデン本国でゴールド・ディスクを獲得するほどのヒットとなった。アッティラ・チハー(メイヘム等)、マニアック(元メイヘム)など、多彩なゲスト・ヴォーカルをフィーチャした企画盤『8 ½ - Feberdrömmar i vaket tillstånd』を挟んだのち、フランスのSeason of Mistへと移籍。15年に9枚目となるアルバム『IX - Everyone, Everything, Everywhere, Ends』をリリースした。15年1月には、Mardukの日本ツアーのゲストとして、まさかの初来日。その狂気に満ちたステージに、驚愕した方も少なくないだろう。
17年には、10枚目のフルレングスとなる『X - Varg Utan Flock』をリリース。ディプレッシヴ・ブラック・メタルと形容された初期から、その後のプログレ、ジャズ、クラシック、ロックと何でもアリの最近の作品に至るまで、シャイニングの音楽は、すべてニクラス・クヴァルフォルトが抱える怒りや苦痛といった、心の闇を具現化したものだ。心の闇を表現する音楽は、何もブラック・メタルだけではない。ロックにもジャズにも、そしてクラシックにも、闇で満たされた作品は存在する。そんな当たり前の事実を、シャイニングは改めて突きつけている。