ジャンルという枠組みに囚われない音を鳴らすACROSS THE ATLANTICは、本国アメリカはもちろん、日本をはじめ世界で注目を浴びることになる才能豊かなバンドだ。ジェイ・マルティネス(ヴォーカル)が、コミュニティ・サイトのCraigslist(クレイグズリスト)にメンバー募集を出したことがきっかけで2012年にACROSS THE ATLANTICの原型が生まれた。ジェイとコーディー・クック(ドラム)が結成当初からのオリジナル・メンバーで、少し遅れてジェイソン・ルーゴとフリオ・バチスタという二人のギタリストも、Craiglist経由でバンドに参加、ACROSS THE ATLANTICは不思議な成り立ちを経ている。ちなみにフリオは、フィリピン人と日本人を両親に持ち、ハイレベルの音楽教育を受けている秀才だ。元々はインストゥルメンタル系のバンドのメンバーで、ACROSS THE ATLANTICのサウンドとは程遠い音楽をプレイしていたが、バンドに興味を持ち参加。楽曲制作において的確なアドバイスができる存在として重要な立ち位置にいる。ちなみにバンドで叶えたい夢は“東京でプレイすること”だそうだ。ベーシストのジェイ・ガーザは地元では腕利きのミュージシャンで、昨年12月にバンドに加入した最も新しいメンバーだ。
これまでにバンドは2013年6月20日にシングル“Semper Fidelis”を、2014年2月に初となるEP『First Things First』を発表。このEPは、A Day to Rememberを筆頭にThe Ghost Inside、Neck Deep、さらに日本発のHer Name In Bloodを手がけたことで知られ、バンドがリスペクトする名手Andrew Wadeを起用。バンドは“Andrewに自分たちの作品を手がけて欲しい”という望みを叶えるため、資金を自費で捻出しフロリダにある彼のスタジオで作品を制作、Andrewもプロデュース、エンジニアを担当し大きな貢献を果たしている。
この作品がきっかけで、バンドは転機を迎える。2014年のVans Warped Tourサン・アントニオ公演出演をかけたオーディションに、出来たばかりの『First Things First』を送るとジャッジが高いクオリティを認め、見事に通過している。その後、2015年5月にはフルアルバム『Holding on to What We Know』を再び自費でリリース。この作品もプロデュースは、バンドのサウンド・メイキングの要=Andrew Wadeだ。その年の12月には、もっと多くの人にバンドを知ってもらおうというAndrewの勧めもありOne Directionの“Perfect”のカヴァーも発表するなど、少しずつバンドは成功を求めて歩みを進めていく。
ACROSS THE ATLANTICを語る上で大きな鍵となるのが“多様性”である。それはジャンルレスなサウンドであり、メンバーが持つ様々なバックグラウンドでもある。“大西洋を渡る”という意味を持つバンド名に対してジェイは、「最初に耳にしたときから、ACROSS THE ATLANTICは忘れられない名前だった。人に覚えてもらえるようなキャッチーさもあるしね。それに自分たちがもっている様々な背景とも一致するとおもった。メンバーには、スペインやメキシコ、フィリピン、日本、アイルランドといった様々な血が流れている。インターネット経由で知り合ったから育ってきた環境も違う。人種や文化も含めて様々な国や地域から集まっていることからも“ACROSS THE ATLANTIC”はピッタリなバンド名だと感じたんだ」と語る。
肝心のサウンドは、FOUR YEAR STRONG、A DAY TO REMEMBERといった骨太ながらもポップのセンスを持ち合わせたバンドからの影響を感じさせながらも、メタルコアの破壊力、ポスト・ハードコアが持つ鋭い切れ味も兼ね備えたカテゴライズ不可能な個性的なものだ。これはメンバー全員の音楽的嗜好の違い、そしてかつて全く違うジャンルをプレイしてきたというところが大きい。ACROSS THE ATLANTICは曲によってバンドの自らの色を変えられる楽曲重視のバンドといえる。
日本でデビュー作となる『Works Of Progress』には、バンドが持つ豊かなバックグラウンドを反映させたような多種多様の楽曲が収められている。アルバムのアートワークに映し出された絵のように、全ての楽曲に伝えるべき物語があるのだ。「たとえ何か大きなミスをして今日が台無しになったとしても、それはただの途中経過であって終わりじゃない。作品タイトルは、今日を生きただけでも明日に繋がっているんだ!ってことを意味している」とジェイはタイトルの意味を教えてくれた。
『Works Of Progress』は前作と同じく自費でのリリース予定で制作に入っていたが、のちにメンバーすら予期しない奇跡を起こすことになる。今作は、バンド活動を続けていくことへの不安を感じたメンバーが最後の作品という決意で臨んだ“自分たちに捧げる”作品になるはずだった。しかし、作品完成の2日前にSharpTone Recordsから契約オファーがあり、皮肉にも自分たちのために作ったアルバムが晴れて世界デビュー作に化けたのだ。『Works Of Progress』がアメリカ大陸を起点に大きな海を越えていく。