ブリス・オブ・フレッシュは、フランス出身のブラック/デス・メタル・バンド。99年にLabdacidesという名で結成された、キャリア20年弱のベテランだ。翌00年にブリス・オブ・フレッシュへ改名すると、01年には「Frozen Ashes of Labdacides (Prelude to Bestial Annihilation)」という、リハーサルを録音したデモを発表。04年には初のスタジオ作品となるデモ「Lethal Ceremonies」をリリース。この時点ですでにブラック・メタル、デス・メタル、さらにスラッシュ・メタルをもとりこんだ独自のスタイルを確立させている。06年にはDeath in Juneのカバーを含む「Todtentanz」7"EPを、07年にはフィンランドのブラック・メタル・バンドBloodhammerとのスプリット7"EPを、そして08年にはドイツのブラック・メタル・バンドAnnihilation 666とのスプリット7"EPをリリース。そして結成から10年目の09年、ついに『Emaciated Deity』にてアルバム・デビューを果たす。13年にはセカンド・アルバム『Beati Pauperes Spiritu』をリリース、着々とヨーロッパでの人気を獲得していった。
2017年には、サード・アルバム『エンピリアン』をリリース。前2作は小さなレーベルからのリリースであったが、今回ついに、あのGojiraをも輩出した地元フランスの名門、Listenable Recordsと契約。『エンピリアン』とは至高天のこと。ダンテが『神曲』の「天国篇」で、天国の中でも一番上位、神々が住んでいる場所と描写したところだ。実はブリス・オブ・フレッシュの以前のアルバム2枚も、ダンテの神曲に基づいている。デビュー作『Emaciated Deity』では「地獄篇」が、次の『Beati Pauperes Spiritu』では「煉獄篇」がテーマだ。そして今回の『エンピリアン』が、神曲3部作のラストを飾る「天国篇」をテーマとした完結編となる。
DissectionのメロディにMorbid Angelの邪悪さ、Emperorばりの堂々としたコーラス。先人たちの知恵を取り込み、独自の手法で消化。ブラック・メタルもデス・メタルも飲み込んで構築された、ブリス・オブ・フレッシュの世界観が持つスケールは大きい。あふれ出るメロディも甘くなりすぎることなどあるはずもなく、その堂々たる不吉さにますます磨きがかかる。神々の住む至高天が、荘厳、雄大に、美しくも不気味に描写されていく。「俺たちは俺たちが聴きたいと思う曲を書いただけだ。他人にこういう曲を聴いてもらいたい、なんていう気持ちではなくてね。巨大なモノリスのような、アルバム全体で一つの作品になっている『エンピリアン』を完成するのは容易ではなかった。おかげで前作から4年も過ぎてしまったが、その甲斐あって、よりブルータル、よりエピック、よりプログレッシヴな仕上がりになったよ」と、バンドも本作の出来に大きな自信を覗かせる。
重層的に奏でられるギターの使い方など、先日『オメガフィリア』をリリースした、同じくフランス出身のメリマックを彷彿させる部分があるのは偶然ではない。この2バンド、00年代にはヴォーカリストTerroriztを共有していたのだ。(Terroriztは06年にブリス・オブ・フレッシュを脱退。)デビュー・アルバムからいきなり『神曲』3部作構想という点からもわかるとおり、ブリス・オブ・フレッシュは知的、哲学的な雰囲気も漂わせる、実にフランスらしいバンドである。そもそもバンド名のブリス・オブ・フレッシュというのも、「Bliss」という精神的な幸福を表す単語と、「Flesh」=「肉体」という単語を組み合わせた、無理やり日本語にすれば「肉体の精神的幸福」とでもいうべき撞着語的なもの。彼らは音楽にも、歌詞や思想にも、そしてバンド名にもフランスらしいインテリジェンスを漂わせているバンドだ。