セラー・ダーリンが結成されたのは2016年6月のこと。3人のELUVEITIE脱退が報じられたのが同年5月なので、まさにその直後ということになる。言ってみれば彼等は、3人で新たなバンドを組むために古巣を飛び出したのではなかったか。既報の通り、アナ達がELUVEITIEを脱けたのは、よくある音楽的方向性の違いに加えて、「このままではやりたいことが出来ない」との思いからだったという。
2002年にスイスのチューリッヒでスタートしたELUVEITIEは、シンガーのフリゲル・グランツマンが立ち上げ、ずっと彼主導で活動を続ける、メロディック・デス・メタルとケルト・ミュージックを融合させたフォーク・メタル・バンド。当然、メイン・ソングライターもフリゲルで、各アルバムのコンセプトなども彼が全てを取り仕切ってきた。とすれば当然、他のメンバーがクリエイティヴィティを発揮する機会は、どうしても限られてしまう。そんな状況に、自ら曲も書くアナやイーヴォは不満が募る一方だったらしい。そして、ある時メルリンの脱退話が浮上し、アナとイーヴォは一緒に辞めようと決意する。
アナによれば、実はそれ以前から、3人で何かやろうという話は出ていたという。それに、アナが2013年に発表した初ソロ作『CELLAR DARLING』にも、イーヴォとメルリンは参加しており──結局のところ、そのタイトルが今回バンド名に採用された。そんなセラー・ダーリンのラインナップは、アナ、イーヴォ、メルリンの3人。ライヴではヘルプ・メンバーを雇い、レコーディングではイーヴォがベースを兼任する。プロデュースを務めたのは、ELUVEITIEの諸作も手掛けてきたNew Soundスタジオのトミー・フェッテルリ。また、彼等がディールを結んだのが、ELUVEITIEと同じくNuclear Blastだというのも興味深い。
こうして2017年に1stアルバム『ディス・イズ・ザ・サウンド』でその全貌を白日の下に晒すことになり、ヨーロッパ全土、そして日本でも高い評価を受けている。2019年には2ndアルバム『ザ・スペル』をリリース。さらにエモーショナルで神秘的なアルバムで還ってきた。
バンドのサウンドに関しては、「ELUVEITIEと同じことをやっても仕方がない」とアナ。無論、古楽器ハーディ・ガーディを活かしたフォーキーなナンバーもあるものの、よりミステリアスで、メランコリックで、ゴシカルなムードも湛えたセラー・ダーリンの音楽は、とても“フォーク・メタル”という言葉だけで語ることは出来ないだろう。さらに、ELUVEITIEでもその独特な歌声──エモーショナルで、コケティッシュで、どこかエキゾティック──により多くのファンを魅了してきたアナが、幅広い曲想にて自由に可能性を広げているのも見逃せない。