ザ・チャーム・ザ・フューリーは、オランダ出身。2010年に結成され、12年に自主制作のEP『The Social Meltdown』を発表。この作品がフランスの老舗Listenable Recordsの目にとまり、13年に『A Shade of My Former Self』でデビューを果たす。キャロライン・ウェステンドルプという大きな存在感を持つ女性ヴォーカリストがバンドの顔であることが、このバンドの一つの大きな特長だ。オランダ出身で女性ヴォーカルというと、エピカやウィズイン・テンプテーションといったシンフォニックなゴシック・メタル・バンドを一番に思い浮かべるかもしれないが、ザ・チャーム・ザ・フューリーのスタイルはもっとストロングなもの。たいていは「メタルコア」とカテゴライズされることも多い彼女たちだが、バンド自身としては、もっとストレートにシンプルに、過激なヘヴィ・メタルを目指しているようだ。
ザ・チャーム・ザ・フューリーの音楽をもう少し具体的に形容するとしたら、「怒りに満ちたアンセム」ということになるだろう。「オシャレなポップスなんてウンザリだからこそ、メタルを聴くんだ。だから俺たちは余計な装飾をすべて取り払って、メタルが持つコアな部分がムキ出しの音楽をやるのさ。メタリカやパンテラみたいにね。彼らの音楽は、決して古くなることはないんだ」と、ドラムのマティス・ティーケンの弁。ザ・チャーム・ザ・フューリーの音楽は、皆が暴れ首を振り、拳を突き上げ大合唱できるヘヴィ・メタル魂あふれた、まさに「アンセム」である。
ファースト・アルバムをリリース後、ベルギーのグラスポップ・メタル・ミーティングなどの大型フェスにも参加し、ますます知名度を上げたザ・チャーム・ザ・フューリーは、現在エクストリーム・メタル界最大手であるNuclear Blast Recordsのサブ・レーベル、Arising Empire Recordsと契約。
そして2017年、4年ぶりのアルバム『ザ・シック・ダム&ハッピー』が発表された。「ザ・チャーム・ザ・フューリーとしてのオリジナリティを大切にしつつ、リフを作品の中心に据えた」という本作は、グル―ヴィーでメロディック、そしてパワフルな仕上がりだ。パンテラのグルーヴとメタリカのアグレッションに、スリップノットのエクストリームさを加える。そしてそれをザ・チャーム・ザ・フューリーというフィルターに通し、21世紀版にアップデート。『ザ・シック・ダム&ハッピー』を形容するとしたら、こんな感じだろう。
ザ・チャーム・ザ・フューリーの燃料の一つに怒りがあることは、バンド名(フューリー=激怒)、そして歌詞を見れば明らかだ。現在のヨーロッパの不安定な情勢を反映するかのように、彼女たちのメッセージは、実に鋭いもの。戦争や政治・経済におけるモラルの腐敗だけでなく、大衆を操ろうとするメディアにもその矛先を向ける。世の中は病んでいる(=シック)。テレビや雑誌では芸能人やセレブのことばかり取り上げている。そういうものを見て人々は満足し(=ハッピー)、銀行の不祥事やシリアの問題などには目を向けようとしない。おかげで大衆はみなバカ(=ダム)に成り下がってしまう。今の世の中はどこかおかしい、と声をあげることこそカウンター・カルチャーとしてのロックの本質である。ロックもメタルも、本来怒りに満ちているものなのだ。ザ・チャーム・ザ・フューリーの音楽は、まさに今の若者の声そのものであり、現代社会の病巣を生々しく反映している。