“かつて人間だったもの”という不気味な名前を掲げるワンス・ヒューマンは、アメリカ西海岸カリフォルニア州ロサンゼルスを拠点とするハイブリッド・エクストリーム・メタル・バンド。90年代にマシーン・ヘッドやソウルフライなどで大いに腕を振るった後プロデューサー/エンジニアへと転向、これまで裏方として数多くの作品に携わってきたローガン・メイダー[g]が、久方ぶりに表舞台で動かしているのがこのバンドだ。
そもそもワンス・ヒューマンが結成される運びとなったのも、ローガンが、当時無名だったローレン・ハート[vo]のプロデュースを請け負ったことがきっかけだった。アメリカ生まれオーストラリア育ちのこの才気溢れる女性シンガーに惚れ込んだローガンはまもなく、十数年ぶりに再びギタリストへと戻ることを決意、追ってダミアン・レイノー[b]、ラルフ・アレキサンダー[ds]を迎えて彼女のバックを支えるバンドを編成する。
かくして動き始めたワンス・ヒューマンは、2015年に1stアルバム『ザ・ライフ・アイ・リメンバー』を発表、この作品を引っ提げてさっそくアメリカ/ヨーロッパ・ツアーへと乗り出す。ここでグルーヴ・メタルやインダストリアル・メタル、メロディック・デス・メタルなど複数のスタイルをモダンに掛け合わせた独自の音楽性を広くアピールすることに成功した面々は、追って次なるアルバムの制作を開始する。そうして完成へと漕ぎ着けられたのが、日本デビュー作となるこの2作目『エヴォリューション』だ。
“進化”を意味するアルバム・タイトルにも堂々と示されているとおり、本作で彼らは、2年前とは違うさらに進化した姿を明らかにしている。まず注目すべきはやはり、大幅に改変されたラインナップ。ワンス・ヒューマンの核となるローレンとローガン、そしてダミアンに加え、今回からスカイラー・ハウレン[g]、マックス・カロン[g]、ディロン・トロロープ[ds]が新たに加わり、バンドはなんとトリプル・ギター編成の6人組となっている。この布陣の強化が、おそらく彼らの音楽欲求の高まり、あるいはまたライヴ・パフォーマンスへのさらなる表現欲求から導かれたものであろうことは、本作『エヴォリューション』に封じ込められた充実の楽曲群からも容易に想像がつく。
実際、ローガンは本作を「チャレンジングなレコードだった」と振り返る。「曲を書き、さらに書き直し、アレンジし直すのに俺達はかなりの時間を費やしたんだ。曲そのものが演奏するのさえ骨の折れるようなものだから、俺はそこに至る限界まで自分自身をプッシュしなくちゃならなかった。でも、総ての曲の総てのパートに至るまで、出来上がったものはきっと何かを感じさせてくれるものになっているはずだよ」
彼の言う“何か”とはつまり、バンドが新たに手に入れた“進化”の果実ということだろう。一度は表舞台を去ったローガンに再び情熱の火をともし、ミュージシャンとしてさらなる高みを目指すよう彼を駆り立てたもの。よりアグレッシヴに、よりメランコリックに、よりドラマティックに進化を遂げたワンス・ヒューマンの最新作『エヴォリューション』が証明するのは、まさしく彼らの現時点での最高到達点に他ならない。
【メンバー】
ローレン・ハート(ヴォーカル)
ローガン・メイダー(ギター)
マックス・カロン(ギター)
スカイラー・ハウレン(ギター)
ダミアン・レイノー(ベース)
ディロン・トロロープ(ドラムス)