サウスカロライナ出身のデス・メタル・バンド、ナイルは、93年に現在残っている唯一のオリジナル・メンバー、カール・サンダース (ギター/ヴォーカル/キーボード) を中心に結成された。デモ2本とEPを発表したのち、リラプス・レコーズと契約。98年に『Amongst the Catacombs of Nephren-Ka』でアルバム・デビューを果たす。非常にテクニカルな楽曲、そして「ナイル」というバンド名にも表れているとおり、エジプトを中心とした中東文化への大きな傾倒という独自のスタイルを築き、エクストリーム・メタル界で大きな反響を呼ぶ。中近東風の楽器やメロディを取り込むというのは、ロックの世界ではむしろ常套句だが、ナイルの場合は別格だ。カールはブズーキなどの民族楽器を自ら演奏するだけでなく、その古代エジプト学に関する造詣の深さは玄人はだし。確固たる知識に裏付けされた楽曲、歌詞が、ナイルの音楽をリアルなものにしているのだ。
00年に2ndアルバム『Black Seeds of Vengeance』、02年に3rdアルバム『In Their Darkened Shrines』、05年に4thアルバム『Annihilation of the Wicked』とリリースを重ねていくが、ナイルはとにかくメンバーチェンジが激しいバンド。この4枚はすべてメンバー構成が異なっている。その後、エクストリーム・メタル界最大手、ドイツのニュークリア・ブラスト・レコーズと契約。『Ithyphallic』(07年)、『Those Whom the Gods Detest』(09年)、『At the Gate of Sethu』(12年)、『What Should Not Be Unearthed』(15年)と、4枚のスタジオ・アルバムをリリース。ナイルは、07年のラウドパーク出演を含む5回の来日経験があるので、彼らのステージを体験しているメタルファンも少なくないことだろう。
2019年には、4年ぶり9枚目となるアルバム『ヴァイル・ナイロティック・ライツ』をリリース。新メンバー、ブライアン・キングズランド(ギター/ヴォーカル) を迎えて製作された。ブルータルなデス・メタルがぎっしり詰まっていて、クニカルでヘヴィ、ときにエキゾティック。古いホラー映画のサウンドトラック・テイストも、アルバムに独特の雰囲気を添える。優れたギタリストというだけでなく、ブルータルなデス・ヴォイスもお手のものであるブライアンが加入したことで、トレードマークであったトリプル・ヴォーカル・アタックも復活。巨匠マーク・ルイスによるミックス・マスタリングもお見事。ジョージ・コリアス(ドラムス)が「ナイル史上最高の音質」であり、「言葉では表現できないほど素晴らしい音質」だと断言する通り、ヘヴィ、パワフルでありながら、リフの細部までがすべて聞き取れる、完璧なプロダクションに仕上がっている。
2024年には5年ぶりのアルバム『The Underworld Awaits Us All』をリリース。長い間ホームとしていたニュークリア・ブラストを離れ、ナパームへと移籍。本作についてカールは、「演奏、ミュージシャンシップ、作曲、ブルータリティ、プロダクション、あらゆるものが過去最高」と、大きな自信を覗かせる。「後戻り、過去の繰り返しはしたくなかった」とする一方、「自分たちのスタイルは変えたくなかったし、Nileのサウンド、ファンに対して忠実にありたかった」という発言からもわかる通り、まさに彼ら流のデス・メタルを進化させたNileの最高峰と言えるアルバムに仕上がっている。テクニカルでブルータル。中東風味も当然健在。